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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

津山家畜診療所 井戸 昭一

 最近診療していると,同じ農家で分娩ごとに産後起立不能症,ケトージス,第四胃変位などが続けて発生している例が多くみられます。『第四胃変位は整復手術をすれば治る』という安心しきった声も耳にしますが症状によっては起立不能症と同様,死亡廃用事故となったり,治っても乳量低下など経営的ダメージは大きくこれらの病気をいかに予防するかということで乾乳期のチェックを今一度したいと思います。
 乾乳期は前乳期で疲労したり,濃厚飼料多給で小さくなった第一胃や,乳腺を休ませながら胎児も発育させ,次の乳期へ向けての助走期間のことで非常に大切な期間で約60日必要です。大きく分けて,乾乳してからの約40日間は乾乳前期と分娩前約20日間の乾乳後期(クローズアップ期)に分けて考えてやる必要があると思います。
 乾乳前期は消化器や乳腺組織の機能回復が主体で低エネルギー,高繊維飼料主体で十分な量と,質の良い粗飼料給与でしっかり食い込ませ満腹感を与えて第一胃を休ませる期間です。中には痩せすぎや過肥で乾乳となった牛も見られますが基本的には乾乳期に体重変動をさせないということで濃厚飼料での調整はやめて乾乳前,後期の日数調整など個体を見ながら獣医師などにご相談して下さい。
 乾乳後期は分娩後の高エネルギー,低繊維飼料への切り替えをスムーズにする為に訓致期間で泌乳初期に用いる粗飼料や穀類の給与量を増加させ,それぞれ第一胃内の微生物を飼料に慣れさせていきます。又この時期は胎児が発育して子宮が第一胃を圧迫して食い込み量の低下が認められますが,分娩1週間も前より3割以上食い込みが低下していれば,何か問題が発生している可能性が有り,注意してください。又グラスサイレージ,鉱塩などのミネラルも乾乳後期は給与を中止して,起立不能の予防に努めて下さい。
 以上大まかな乾乳期の飼養法ですが,適正に管理できたかの判定は子牛の大きさ,後産停滞の有無で可能です。食欲が有るまま分娩した牛は以後の調子も良く経過している事を畜主の方は良く知っておられるはずです。
 最近は乳価低迷でやや元気のなくなっている酪農ですが飼槽が空っぽではいけません,投資が必要な時期は乾乳期も泌乳期も変わりありません,十分な個体観察と合わせて,産後の重大疾病を減少させ消防自動車や救急車的仕事以外での獣医師の仕事が多くなれば経営改善にも役立つものと思います。