ホーム岡山畜産便り > 岡山畜産便り2000年4月号 > 「新庄方式」による和牛ET子牛生産

〔地域情報〕

「新庄方式」による和牛ET子牛生産
〜和牛増頭への新たな取組み〜

真庭地方振興局農林水産事業部 畜産係

 例年にない雪年の冬も終わり,毛無山の雪解水が新庄川を流れる頃,137本の桜並木「がいせん桜」のつぼみがほころび始めます。真庭郡西北端に位置するここ新庄村は,古くから畜産業の盛んな地域で,現在でも生乳,和牛子牛は村の主産物のひとつです。今回は,受精卵移植(ET)技術を活用した「新庄方式」による和牛子牛生産の取組みについて紹介します。
 ET技術を利用した和牛子牛の乳牛借腹生産は年々増加していますが,これは酪農家での難産防止や所得向上,また肉用牛農家では子牛の増産が図られるなど両者にメリットがあります。新庄村でも昭和60年代から取り組んできた和牛ET子牛生産ですが,酪農家の規模拡大に伴う自家育成の減少,また乳雄価格の低迷からF1やET和牛の生産が盛んになり,近年では,専ら和牛受精卵を移植した初妊牛を北海道から導入するようになっています。
 そこで生まれたのが「酪農家は分娩まで,哺育・育成は肉用牛農家で」という役割分担。新庄方式では,@初乳は生後直ちに給与する。A子牛の移動は基本的に誕生当日。B子牛の販売価格は一律10万円。C和牛受精卵の交配はグループで相談して決める。を基本事項と定め,酪肉両者のメリットを生かします。
 ホルスタイン種などに比べて難しいと言われる和牛の哺育ですが,新庄では,気候や地域性に合ったグループ用マニュアルを作成し,毎月の測尺や血液分析などを参考に試行錯誤を重ね,哺育期の事故軽減と発育促進に役立てています。また,子牛出荷後の検討会や肥育農家の視察研修会などを行って,より市場性の高い子牛を生産するべく,哺育・育成技術の研鑽が図られています。その結果として,新庄産の和牛ET子牛は発育も良く,販売価格も市場平均を上回り,購買者の信用を得るに至っています。
 新庄方式の最も注目すべきは,単に市場性の高い子牛の生産を目的とするだけではなく,地域内に優良な和牛を残すことを目的としている点です。質量兼備の和牛を作出するために育種価を活用し,県産の優良受精卵を利用したり,導入牛へもグループが指示した交配の受精卵を移植します。今年度は,この中から3頭の優良雌子牛が新庄村内に保留され,将来を嘱望されています。
 グループでは,今後も北海道卵や県卵を活用する一方で,地元に保留した優良牛からの自家受精卵の生産,移植を計画しており,和牛ET産子の省力・低コスト・安定生産を目指しています。
 近年の和牛飼養農家および繁殖雌牛の減少により,久世の子牛市場でも上場頭数が漸減していますが,「新庄方式」による和牛ET子牛生産は,和牛増頭への新たな取組みとして注目されるところです。
 振興局としても,「新庄方式」が今後さらに発展してより良い和牛が生産されるよう,また,次の「新庄方式」が生まれるように今後も関係機関と連携していきたいと考えます。