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子豚のサーコウイルス感染症における発育遅延の検討

家畜病性鑑定所 奥 田 宏 健

1.はじめに

 近年,離乳後子豚に呼吸器症状,下痢を伴った原因不明の発育不良,不揃いが散見されており,最近,この原因の1つとして,豚サーコウイルス感染に基づく離乳後多臓器消耗症候群が多くの国で確認されている。本疾病は5〜12週齢の子豚に体重減少,呼吸促進・困難,黄疸等がみられ,日本では1996年千葉県で報告されて以降,多くの県で確認されており,PRRSと混合感染して発育遅延,呼吸器症状等を惹起している。岡山県内においても,散発性下痢後の発育遅延を呈する若齢豚に本疾病が確認されており,本疾病による発育遅延の原因を検討した。

2.発生豚の概要

 肥育豚300頭を飼養する繁殖・肥育一貫経営農場で,1999年2月頃より2〜3カ月齢の若齢子豚に軽度の呼吸器症状を伴う下痢が散発した。発生豚群の中には多くの無症状同居豚もみられた。殆どの子豚は抗生剤投与等で下痢は治癒したが,一部の子豚では食欲不振,発育不良,削痩がみられた(死亡率1〜2%)。
 剖検では,肝臓の退色・硬化,肺の肝変化と虚脱,腎臓の白斑と白色・線状痕および腫大,腸の全域に渡る粘膜充出血・非博化またはビマン性肥厚がみられ,殆どの症例のリンパ節は腫脹した。組織検査では,病変は多臓器に渡っていた。肝臓,脾臓,肺,腎臓,腸管,リンパ節には網内系細胞の腫脹,マクロファージ・リンパ球の浸潤,多核巨細胞の浸潤する肉芽組織および結節性動脈炎の存在する間質性炎が存在した。腸管の網内系組織には,大小さまざまなブドウ房状好塩基性封入体が存在した。1例の肝臓には偽胆管増殖を伴う肝細胞懐死が存在した。

3.ま と め

 野外における豚サーコウイルスは豚に高率(24〜92%)感染しているが,本ウイルスの起病性については充分解明されていない。最近,2型豚サーコウイルスに起因する離乳後多臓器消耗症候群と称される若齢子豚の消耗性疾患が欧米を中心に多数報告されている。本疾病は若齢子豚の発育不良が特徴である。
 今回の2〜3カ月齢の発育不良若齢子豚には,多臓器に渡る巨細胞の増殖する非化膿性間質炎,網内系細胞増殖およびリンパ球の脱落が存在していた。これらの病変は慢性肉芽性病変であり,子豚はこれらの各臓器に渡る肉芽組織を伴う間質性病変により多臓器不全に陥り,発育不良となることが示唆された。さらに,1例には広汎な肝細胞の壊死脱落と偽胆管造成を伴う間質性肝炎があった。すなわち,離乳後多臓器消耗症候群には肉芽性間質性病変ばかりでなく,壊死性病変も存在することが明らかになった。
 豚サーコウイルスは県内養豚場に存在し,離乳後多臓器消耗症候群を惹起し,若齢肥育豚の生産障害要因として深く関与していることが窺われた。最近,離乳後多臓器消耗症候群は本邦においても相次いで報告がされており,豚の生産病における重要な消耗性疾病となる可能性がある。