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牛の食中毒

岡山西南家畜診療所 沖田 詞延

 時節柄,よく食中毒に関係する報道を目にしますが,場合によっては不幸にして命をも危ぶまれるケースがあり,細心の注意を呼びかけられています。
 そもそも食中毒とは飲食物を摂取することでおこり,その原因は細菌性のもの,自然毒のもの,化学物質によるものに大別されます。
 この高温多湿の時期には細菌による中毒が圧倒的に多いのですが,人で「O−157」が現われる前は「サルモネラ菌」による食中毒が代表的な存在の一つでした。
 サルモネラ菌は人畜共通の感染症で鼠チフス菌とも呼ばれて,他の野鳥獣も時に菌を伝播します。
 人が感染すると発熱,強度の下痢を認め,死に至りかねない恐しい病気です。特に体力の弱った人,老人,幼児は危険で,日常の衛生習慣と鼠の駆除が呼びかけられてきました。
 さて牛の食中毒の代表的なものとは,やはりこのサルモネラ菌でしょう。昔は「サルモネラ症は子牛の疾病で親牛には無い。」といわれていたのですが,7年ほど前より全国的に成牛の発病がみられ,平成10年4月より届け出伝染病に指定されました。岡山県では平成4年に初めて発病の報告があり,その後県下各地で広がりをみる。それはサルモネラ,チフィムリウムがほとんど原因菌でした。
 手遅れになると死亡率の高い本症は大抵の牛が41℃前後の発熱と体皮温の低下,水様性悪臭下痢,血便,流早死産などの症状が現われ衰弱し死に至る。
 明確な感染経路が不明な場合が多くそれだけに厄介であるが,水害等による牛舎内の汚染や野鳥獣の侵入などが考えられます。「もしサルモネラ菌が侵入すると常在化して完全撲滅は困難。」とされていても,畜産農家は無論,各関係者達はこの侵略者(菌)との戦いは避けられません。
 敵は牛舎全頭の牛達をターゲットに攻撃してくるわけですから,まさに人と細菌との戦争状態となり,長期間のバトルを余儀なくされます。
 武器は強力な抗生物質剤をもってして,徹底的な清掃消毒,野鳥獣侵入防止等の鉄壁を築かねばなりません。しかし農家側としては結果的には全頭に抗生剤を注射する羽目になる場合がほとんどで,牛乳の全廃棄処分せざるを得ず,それに加え薬剤費等の多額の損失と肉体,精神的疲労の重圧は計りしれません。
 岡山県の発症は初夏から初秋に多く,暑熱ストレスによる体力消耗も関与していると考えられ,夏季の防暑対策の重要性は過去毎年の様に報じられています。
 またルーメンジュース(胃汁)はサルモネラ菌に対して一つのバリアであり健康な状態では主に揮発性脂肪酸と低PHにより殺菌するといわれ,異常発酵になるとサルモネラ菌などは活発化する。そこで発酵を正常に保つには生菌剤(ボバクチン等)を投与続ける。そのことで牛の食中毒もかなり防げるはずです。またワクチンの接種も検討してみる必要があるでしょう。
 人の健康に大きく貢献している新鮮な牛乳の源の牧場が,この目に見えない侵略者を相手に悲惨な戦場化とならない様,日頃の飼養管理に充分すぎる配慮と実行を施し,人も家畜も健康でこの時期を乗りきりたいものです。