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〔共済連便り〕

家畜診療日記

農業共済組合連合会  岡山西部家畜診療所    
阿新支所 畦崎 正典

 阿新支所に着任して今年で2年目となる。当管内は県内でも屈指の和牛地帯であり,前任地が乳牛地帯であったために着任当初は戸惑いの連続であった。事務引継の時に先輩の先生により「阿新は子牛の下痢にはじまり下痢に終わる。手術なんて数えるほどしかないから。」といわれており,実際に診療してみると,子牛の下痢に関しては以前とは発症も早く,コクシジウムの混合感染もあり,特に苦労するであろうと感じられた。そのなかで管内の最大繁殖農家であるA牧場(飼養母牛80頭)が和牛超早期母子分離飼育という画期的な飼育形態を導入したことにより下痢の治療が非常に楽になった。これは前任者と家畜保健所諸先生方の努力のたまものである。
 母子分離飼育は生後1週間ほどで母牛と子牛を分離飼育するという方法で,乳牛の世界では至極当り前のことであるが,和牛の世界においては昔には考えられないことであった。いざ導入してみると,最初は戸惑いもあったものの子牛が下痢をしてもすぐに発見でき,治療(経口補液剤や止瀉剤の投与等)も簡単で農家でも早期に治療できる。このことより子牛の下痢症による病傷及び死廃事故が激減したのである。また繁殖成績も向上するとされており,大型和牛農家には推奨される飼養形態のひとつであると考えられる。欠点があるとすれば,飼養コストがかかり小型和牛農家には不向きであること,また哺育期間中の子牛の成長がやや悪いこと,母牛の飼養管理(特に飼料の給与量)が重要であることである。これをまちがえるとかえって繁殖障害がふえる危険性がある。実際に初めてとりかかった年にはA牧場でも過肥牛が増え繁殖障害が増加した(それでも成績上は空胎日数は短縮された)。今年はこれらのことを踏まえ子牛の哺乳回数を3回に負やしたことで子牛の増体は前年に比べ良好で,また繁殖成績についても母子分離後の母牛の飼料給与量を維持量におさえることで過肥牛が減少し,現在のところ順調にいっているのではないだろうか。
 手術に関しては平成11年度12頭(第4胃整復術10頭,尿道切開術2頭)平成12年度現在まで10頭(第4胃整復術6頭,第1胃切開術1頭,帝王切開術1頭,尿道切開術1頭,ヘルニア整復術1頭)である。前任地の診療所に比べると少ないものではあるが,結構バラエティに富んでいる。特に尿道切開手術などというものは,共済獣医師になって3年目の頃に先輩の先生方が手術をするのを1度見て以来のものである。
 このように和牛地帯といえどその技術内容等は変化,又進歩してきている。共済獣医となって15年,まだまだ学ばなければいけないことが山積みのような気がする。