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〔共済連便り〕

「家畜診療日誌」

真庭家畜診療所 森本 高輝

 いよいよ,冬の到来である。高温多湿が苦手な牛にとっては,低温で乾燥した冬は一番いい季節とも言える。
 事実,一部を除いて,日常の診療業務も減少する。
 しかし,この時期に比較的多く見られる疾病もあり,少し紹介してみたい。
 まずなんと言っても,気管支炎(一部肺炎)である。俗に言うかぜである。この時期,昼間の診療を終え,夜間当番をしていると,“発熱し,食欲ない”との連絡がよく入る。大半が寒いあまり,牛舎を締め切ってしまい,アンモニアガスで気道を刺激してしまったことによるものが多い。一方,肥育牛の場合もこの時期多発するが,その年の気候や飼養管理によっても大きく変動する。とくに寒暖差が大きい年は,極端に診療件数がふえるため,ことしの冬はどうなのか,大いに関心があるところである。
 2つ目には,乳熱である。この疾病は一年中,発症するものであるが,比較的この晩秋から春先にかけて,多く見られるようである。私が担当している真庭南部地区(真庭地区)でも近年,ジャージー種が導入され,年々増えている。このジャージー牛の特徴は,乳脂肪が高いのは,広く一般的に知られているが,簡単に乳熱になることもあり,近年,よく起立不能に遭遇する。ホルスタイン種に比べて,発病しやすい反面,簡単に治る。従来のD3の注射・カルシウム投与などの予防法をおこなえば,ある程度は予防できる。しかし,一度発病すれば二次的に脱臼・筋断裂で廃用になるものもあり,経済的損失が大きい。
 最後に第4胃変位である。この疾病も年間を通して見られるものであるが,夏バテを乗越え,ようやく食欲が出て来た牛が,この晩秋の急激な冷え込みが来た途端,第四胃変位が妙に増えてくる。この9・10月は,ほとんどみられなかったものが,先日は一日に4頭も第4胃変位の牛を見つけてしまった。なぜ,変位になるのか?産後に発症するもの・産後数ヶ月経過して発症するものとがあるが,最近では,低カルシウム血症や脂肪さらには第1胃のエンテロトキシンが原因の1つとされているが,はっきりした原因・予防法はわかっていない。これからの手術は,とても寒くてつらいので,1頭でも減らしたいと願っている。以上3つの疾病をあげたが,どれもルーメン(第1胃)のコンディションに左右されえるようである。特にルーメン内のph(酸度)が問題となっている。
 濃厚飼料多給型の農家では,ルーメンアシドーシス(酸性に傾く)になっている場合と逆にルーメンアルカローシス(アルカリ性に傾く)になっている場合があり,どちらもルーメンの異常発酵がおこり,様々な疾病の起因となっているようである。
 従来はアシドーシスが問題になり,代謝障害・胃腸障害などを起こすと言われ,予防法として重曹などの添加が言われていた。しかし,最近では可溶性タンパク質が多い飼料を多給している農家が多く,この場合では逆にアルカローシスになり,サルモネラなどの細菌感染にかかりやすくなるようである。
 こういう場合は,生菌製剤などの添加によりルーメン発酵を整える方法が望ましいようである。具体的には,ボバクチンが有功のようであり,現在,私が担当している農家のうち,約10人の方に毎日添加して頂いているが,結果はまずまずである。粗飼料を十分に給与することが条件ではあるが,肢蹄疾患・胃腸障害などが減少する。ぜひボバクチンを試してみてください。