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〔地域情報〕

吉備路農協肥育部会の取り組み
─藤井健治郎さん第39回岡山県枝肉共進会農林水産大臣賞受賞─

吉備路農業協同組合

1.第39回岡山県枝肉共進会
 第39回岡山県枝肉共進会(経済連主催)が,昨年12月10日(日)〜14日(木)にかけて,県営食肉地方卸売市場で開催されました。和牛65頭,肉豚30組(2頭1組)が出品され,和牛去勢の部の農林水産大臣賞(最優秀賞主席)に,吉備路農協肥育部会の藤井健治郎さん出品の「池鶴高」号が選ばれました。「池鶴高」号は父が金鶴号,母方の父が糸藤号で,岡山系の繁殖牛に但馬系を掛けたもので,枝肉成績はA−5,ロース芯面積69f,BMSbXでした。
 和牛は脂肪交雑,肉豚は枝肉重量,肉質,脂肪付着を重点に審査され,審査講評では,「和牛枝肉は全般に均称,肉付きが良好で,ロース芯面積や格付けについても昨年より大きく改善されており,肉豚は全般的に肉付きが良好で,背腰が広く腿が充実したものが多いなど,近年でも特に優秀な成績でした」とのことでした。

2.藤井健治郎さんの紹介
 藤井健治郎さんは,昭和6年6月20日生まれの67歳で「裸足のケンボウ」という名の知れた人で,牛を飼い始めたのは昭和46年,40歳の時でした。
 その当時はホルスタイン肥育が主で,牛を太らせるだけで良く,現在の様に肉質は関係なく1頭で20〜30万円の利益が出ていました。しかし,翌年のオイルショックにより牛の価格が安くなり,利益がなくなり多額の負債を抱えることになりました。
 しかし,その後日本は高度経済成長期を迎え,藤井さんも負債を1年で返済されたそうです。ホルスタイン肥育の肥育期間は8か月程度でとても回転が早かったそうです。ホルスタインの肥育は約10年ほど取り組み,その後,F1を飼い始められました。しかし,当時,販売業者がF1を和牛として販売するようになったため,食糧庁からの指導が入りました。ちょうどその頃,経済連から和牛の肥育を進められたこともあり,F1から和牛へ変更し現在も和牛一筋に肥育しておられます。
 藤井さんの肥育技術は,経済連の指導のシステムを取り入れ,現在でも基本を大切にしています。また,飼料経費の削減をするために食品粕類の有効利用に取り組み,日夜研究し,飼養管理の体系を確立しました。餌は午前6時,午後6時と毎日決まった時間に与え,牛よりも先に食事をとったことはないそうです。
 以前,藤井さんは北海道からの研修生に肥育技術を住み込みで教えるなど,人,牛ともに愛情をもって接している心の優しい人です。

3.地域の概要と経営状況
 吉備路農協では,昭和地区で牛を肥育しており,昭和43年に旧吉備昭和農協が中心となり,昭和地区を肉牛肥育の集団地にする計画を立て,地方競馬全国協会から343万円の補助金を得て乳犢センターを建設しました。ここで和牛雄と乳牛雄の子牛を集団哺育し,約3ヶ月後に各農家へ配分,放牧形態による肥育方式を実行しました。
 飼育戸数と飼養頭数は,昭和43年頃は約60戸,420頭くらいであり,昭和55年頃には900頭前後までに増えましたが,その後の輸入自由化の波とともに減少し,現在では5戸で約350頭になっています。
 現在の市場価格は,2規格では40〜50万円であり,5規格では100万円前後で取引され,2規格と5規格の価格差が大きくなっています。このため,4規格以上のものを70%以上肥育しようと,肥育部会全員が一丸となり「肉質の良い牛を作ろう。」をスローガンに,毎年4月に1年間の活動内容を肥育部会と農協とで決め,それを実行しています。
 活動内容は,二ヵ月に一度研究会を開催し,経済連・市役所・家保の方々をお呼びし,現在の畜産状況や餌の与え方などのご指導を受けています。また,年に一度先進地の視察を行い,他県の肥育の流れなどを勉強しています。その他気になる事があればいつでも部会を開き,お互いの意見を尊重しあっています。
 夏季には牛舎にハエが多く発生するため,部会のメンバーで各牛舎を回り駆除しました。また,昨年は家畜伝染病の口蹄疫が宮崎県で発生したので,各牛舎の消毒も実施しました。部会皆で話し合い,協力し合っています。その結果がこの度の受賞につながったのだと思います。
 現在,肥育した牛の価格は「枝肉単価×枝肉重量」となっています。枝肉単価の高かった時期は単価さえ高ければ,肥育牛は高く売れました。しかし,バブルが弾け,枝肉単価が安くなってきた現在では枝肉単価に加え重量がとれなければ牛は高く売れません。肉質が良くても重量がない,重量があっても肉質が悪ければ同じことになってしまいます。肉質・重量共に兼ね備えた牛でなければ十分な利益が出ないのです。
 肉質(脂肪交雑)を大きく左右するのが血統ですが,現在の子牛市場名簿には父,母の父,母の母の父と三代の血統が載るだけで,時代はどんどん変わっており過去の名牛が必ずしも今の名牛ではないのです。今,何が評価されているのかが重要なのです。
 いろいろな掛け合わせの牛がいますが,自分に一番合った飼い方ができるのは,どの掛け合わせが良いのか,その牛の素質を十分に発揮させることが出来る牛を実際に自分の目で見て体高や,胸囲が日齢と合っているかを確認し選ぶのです。
 もう一つはやはり餌が重要です。初期には高蛋白・低カロリーなどの粗飼料を与え,内臓をしっかり作り,中期には高カロリーの餌を与え太らせ,後期には麦などを多めに与え牛を枯らし仕上げる。
 基本に忠実にし,その上で各個人が餌の質や量を試験的に変え,今以上の牛を育てようと丹念に牛を育てています。
 吉備路農協管内の昨年の4規格以上は全体で26%と大変低く,現在の経営状況はあまり良いとは言えませんが,研究会など重ねていく上で,最新の知識や肥育技術を取り入れながら基本を大切にしていけば現在よりも良質な牛が育つと考えています。
 今後,牛の改良も進み,格付けは高くなると考えられますが,消費者の財布のひもは固く,枝肉の高価格はなかなか期待できないと思います。しかし,全国の改良スピードよりいち早く岡山和牛が改良されれば肥育経営は今以上に良くなると思います。