ホーム岡山畜産便り > 岡山畜産便り2001年3月号 > 家畜診療日誌

〔共済連たより〕

家畜診療日誌

家畜臨床研修所 谷   孝 介

 事故防止のため牛群検診や診療等の時に飼養管理などの改善点の指導が行われていますが、ここ数年,死廃事故頭数の増加の傾向は変りない状況で,このことより指導態勢に限界がみられています。
 このように状況から,指導の内容がタイムリーで,継続した新たな事故防止の指導の方法が求められています。
 そこで平成11年春より,牛群検診等で得た牛群のデーターを基に,病畜の発生原因から牛群の指導を行いました。
 この牛群指導のため,臨床獣医師の目で牛群を観察し,異常牛は診療する状況から「牛群診療」という名称をもって行いました。
 この酪農家では,1年間に10頭の死廃事故と潜在性乳房炎及び不妊により3頭の淘汰で,13頭減少し,新たに10頭導入していた状態でした。
 この酪農家では,牛群診療で主に繁殖障害に力点を置き,分娩後の子宮や卵巣の状態をチェックすることから妊娠確定を得るまで牛の状態を観察し,発情の見られない牛には,発情誘起プログラム等により発情の明確化に努め,受胎率を高めるようにしました。
 また,この定期的な牛群診療の時,糞便の状態にも注意し,エサの消化状態を観察し,エサ給与の改善を続けました。
 乳房炎,特に体細胞数の増加については,乳検成績の体細胞数や前搾り乳汁のチェックから異常牛を早期に見付けだし,抗生物質等により治療の徹底を図りました。
 蹄については,過長蹄やルーメンンアシドーシスに注意し蹄底潰瘍,イボ状趾皮膚炎等の蹄病は,ギブス包帯を用いた患蹄浮揚等により治療しました。
 給与飼料については,乳質や糞便,牛体のフケなどの変化に注目し,BCSの維持や乳質の改善指導には主にチモシーやアルファルファー乾草の給与で調整しました。
 これらの指導によって,その後の死廃事故は4頭発生し,病傷件数は増加しましたが,1件あたりの診療回数は激減しました。病気の内容としては,生産性に直接結付く繁殖や乳房,蹄に関する病気などの発生が見られました。
 受胎の状況は,4月〜6月の3か月で17頭受胎しました。
 分娩と事故の状況は,翌年2月に9頭分娩し,1月〜5月で20頭が分娩しました。これら分娩牛での病気は7件発生し,ケトーシスや低ca血症等が発症しましたが,軽症の状態て早期に発見され完治しました。
 乳量の状況は,分娩が集中したため5月には38.7sの平均乳量となり,この農家において過去最高の乳量に達し,さらに乳質の改善もみられました。
 牛群診療では,牛群検診で異常牛の傾向を把握し,改善点と病気発生予報の指導を継続的に実施することができましち。
 また,牛群診療で酪農家と共に牛の観察をすることから,牛の異常を早期に発見する観察力を農家が修得しました。
 このことが,死廃事故頭数の減少と周産期での疾病の減少となり,泌乳量の増加と収益性が高まり,生産意欲の回復に継ながったと思われました。
 牛群診療は,牛群頭数の増加に対しても,診療対象の牛とミックスしたタイムリーな指導が可能で改善点の指導に継続性が得られ,牛の健康維持と事故防止の有効な方法と考えます。