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和洋折衷ならぬ和乳折衷での経営

岡山家畜保健衛生所

1.はじめに

 畜産を取り巻く環境は担い手の高齢化,混住化,糞尿処理の問題等の発生により,余儀なく畜産経営を離脱する人が増えている状況にあります。このような中で岡山家畜保健衛生所管内では,畜産農家戸数・飼養頭数とも減少するなか,積極的にET(受精卵移植)を活用し和牛産子生産を行う農家があります。
 今回,山陽町の市街化地域の住宅密集地で高齢化のため一時廃業を考えていた酪農家が現在ET技術を活用し和牛産子生産に取り組み,将来は和牛経営一本に経営転換をしようとしている藤原巳代治さん御夫婦を紹介します。

2.和牛生産へのチャレンジ

 現在,藤原巳代治・千恵子さん夫妻は,乳牛19頭・和牛9頭を飼育し,巳代治さんは山陽町受精卵移植研究会の会長を務めています。
 山陽町は酪農家戸数は4戸と少なく,和牛繁殖農家も皆無のため地元での受精卵の確保が難しく,総合畜産センターの受精卵を移植することしか出来ない状況にありました。
 そこで,積極的にETを実施したい農家があっても受精卵不足により移植できない状況を打破をするため,家畜保健衛生所を中心とした畜産関係機関・団体と優秀な和牛を飼養する瀬戸南高校の協力による「山陽町受精卵移植研究会」を平成12年に再スタートさせることにより受精卵を確保,地元での採卵・移植をすることが可能になりました。

 平成11年度から平成13年現在までの移植頭数は10頭で6頭が受胎し,そのうち妊娠中は3頭です。

3.和牛経営の新たな転機

 研究会でのETが軌道に乗った13年4月に和牛経営で新たな転機が訪れました。本格的に和牛を飼育してから2年目,奥さんの千恵子さんは久世の和牛子牛セリ市場に販売者として立っていました。上場前の体重測定では子牛は標準以上の発育がみられたものの,平均的な相場で売れれば御の字という思いでいましたが,セリが始まると値はみるみるうちに上がり58万円というその月の去勢牛でのセリ最高値を付けました。千恵子さんは価格を見るなり涙が止まらなくなり,車に載った子牛(福ちゃん)に顔を近づけ「福ちゃん,ありがとう。これからは買ってもらった人に奉公するのよ」と声を掛け別れたそうです。
 “和牛子牛は生まれてから育成するまで我が子いや孫のように可愛がり,手をかけ愛情をかけることで御恩返しをする子牛ができるのでは”と千恵子さんはおっしゃいます。
 専用の運動場が無かった頃には住宅が密集するなかを母牛と子牛を一緒に散歩させ,近所では“牛を散歩させるお母さん”と一時は有名になっていました。今では専用の運動場も完成し,毎日牛を運動させ牛の健康状況を見極めています。4月セリで最高値を付けた母牛は8月に次の出産を控え,分娩後には採卵し是非とも福ちゃんのような後継牛を残したいと熱く語られていました。

和牛専用の運動場(後ろには住宅が密集している) 十分な愛情を受け良好な発育を示す和牛子牛
去勢最高位のトロフィーと賞状を手にし喜ぶ藤原さん夫婦と,中央はJAあかいわ営農指導員の稲井さん

 長年,酪農を営んできたが市街化の進展や糞尿処理への新たな投資,そして年齢的な労働力不足など先行不安を感じる状況において,和牛生産への新たな取り組みは藤原さん御夫婦を若返らしたと思われます。