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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

岡山西南家畜診療所 沖 田 詞 延

 過去,20年ほど前の乳房炎はペニシリン,ストレプトマイシン抗生剤でも治療効果が認められた様に思われますが,昨今では抗生剤も日進月歩の開発も進められていても,なかなか良い効果が望めないのが現況です。また乳房炎による死廃頭数も増加する傾向にあります。
 乳房炎は酪農家の方々に最も大きな損害を与える疾病で,これは乳量・乳質の低下,異常乳の廃棄・治療費・淘汰・死廃牛としての損害もさることながら,それが頻繁に起こると精神的苦痛をも与えます。それでは乳房炎はいかにして新規に発生するのでしょうか。
 (感染源):環境性乳房炎と伝染性乳房炎
 乳房炎を起こす細菌のあるものは常に環境中に存在し,そのため“環境性細菌”と呼ばれている。それらの細菌の“感染源”とは単に環境条件の変化を意味し,動物のある特定の部位,乳房炎の場合は乳頭口に強い攻撃をしかけてくる。これは,一般には搾乳と搾乳の間に起こる。一方,他の細菌(例えば,無乳性レンサ球菌)は感染牛のみ存在し,“感染源”は牛群内の感染牛,または感染牛の購入等が考えられる。そして感染は牛から牛へと移行するので“伝染性細菌”である。伝染性細菌の移行は感染牛から非感染牛へ搾乳中に起こるが,それには仲介者(ベクター)が必要であり,例えば搾乳者の手指,乳房布,ミルカーのライナであったりします。
 一般に夏から初秋の高温多湿のストレス負荷時期に乳房炎は多発するが,環境の変化も生じやすく,特に環境性の乳房炎が多いとされている。昨年,岡山県農業共済連家畜診療所(岡山南部・岡山西南・真庭・津山)で8月〜10月にかけて臨床型(慢性・急性)乳房炎について起因菌と薬剤感受性試験を実施しました。検体数(乳房炎発症牛)60頭で菌種数101個を検出しました。101個の菌種の内,黄色ブドウ菌15%,クレブシェラ13%,大腸菌(E-coli)9%,CNS(コアグラーゼ陰性ブドウ球菌)8%でありました。
その他には真菌,酵母なども含まれます。環境性のみならず伝染性の起因菌も多く検出された結果となりました。クレブシェラは環境性の乳房炎ですが,オガクズに存在しやすい菌で,激しい全身症状を発症し治りにくい乳房炎をしばしば見かけます。ある酪農家は敷料をオガクズから茶のクズに変更したところ難治性の乳房炎の発症が著しく減少したという例があります。
 抗生物質感受性試験は,黄色ブドウ球菌にはセファピリン(KPラック)・ジクロキサシリンが,クレブシェラにはセファゾリン(セファメジン)・セファピリンがやや有効であった。大腸菌(E-coli)はセファゾリン・カナマイシン・ストレプトマイシン。その他の細菌では一般的にセファピリン・ペニシリンが有効であった。ただし真菌・酵母には抗生物質は無効という判定でした。また60頭中,治療牛は39頭で,その他21頭は淘汰・死廃につながったもので,ほとんどは黄色ブドウ球菌,クレブシェラ,大腸菌による壊疽性の乳房炎でありました。
 最近の食品消費傾向は安心・安全・新鮮なものが求められていて,消費者のニーズに合った生乳生産には乳房炎対策が大きなポイントになると思います。酪農家をはじめ,関係機関が強い意識を持って取り組むことが必要でしょう。