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〔特別寄稿〕

MALAWI事情,とくに畜産!!

岡山家畜保健衛生所 錦 織 拓 美

 前号に引き続き,今回はもう少しマラウイを詳細に紹介をします。
 私が赴任したのは,98年12月からのちょうど雨季で,着いた当初は,主食の“とうもろこし”が大地を緑色にして,順調に伸びていました。そのとうもろこし畑のまわりには,集落状に家々が,親族関係で小さくまとまって点在しています。

『マッシュルームハウス』…村の一般的な家(*写真1)

写真1 マッシュルームハウス

○萱で葺き,壁は粘土かあるいは煉瓦で固めてあります。
 雨季の大雨から浸水を避けるためか,平地より少し高く造られています。
○どの家も,円い形の穀物倉庫,萱で囲んだバスルーム,土壁の小さな小屋のトイレをもち,バナナやマンゴーの木が敷地内に生えています。
○家々の庭には,ほとんど放し飼い状態の羊,山羊や鶏が散歩しています。
○電気普及率は4%わずか。日が暮れると,ろうそくやランプの火が点り,ある意味で幻想的な雰囲気です。
○生活水事情は,都市では上水道設備が整えられていますが,村では約25kmおきに,主にインドからの援助による井戸が設置され,人々に活用されています。朝晩には,女性がバケツを頭にのせて,水くみに出かける様子が見かけられます。

『ミニバス』…マラウイを走る公共交通機関(*写真2)

写真2 ミニバス

○日本で使用されたままの状態で,マラウイへ輸出され,再び使用されているようで,車体の側面に書かれた「日本語」の会社名や学校名が特徴です。
○首都のリロングェから約120q北にある赴任地「カスング」という中規模の都市へ向かうときにこの『ミニバス』をよく利用しました。バスの中は人数いっぱいの状態で座席を分かち合い,会話に花を咲かせながら,マラウイで流行しているカセットテープの曲を聞きながら乗っています。

『チチェワ』…マラウイの現地語
 派遣直後,約1ヶ月の現地スタッフによる「チチェワ」訓練が行なわれ,そのあと赴任してから協力隊活動は,本格的に始まります。「チチェワ」の文法は英文法方式で,発音はローマ字を日本語読みすれば良いので,比較的なじみやすいです。この訓練でのカタコトで覚えた「チチェワ」は,マラウイで2年間の任期を務め上げるうえで,また現地に溶けこんで活動をする際,村の農民と接する場合にも常に有用で,親日的なマラウイ人に対しても,とても好評を得ていたと思います。
 挨拶の大好きなマラウイアン,手を差し出しながら「ムリヴァンジ?」と言えば,かならずニコッとした笑顔で答えてくれます。でも,そこからさらに“こいつは知っている”と思われ「チチェワ」攻撃が続きます。

『農業灌漑省畜産局カスング農業開発局カスング地方開発事務所付属獣医事務所』
…私の配属機関(図1)

○獣医師協力隊員として派遣され,カスングの街中にあった獣医事務所の所長として赴任しました。

『カウンターパート』…協力隊員が技術を移転する直接の相手(*写真3)

写真3 カウンターパートと獣医スタッフ監督者

○畜産に関わるスタッフは,図1の構成組織図内(<>で囲む)に示されます。
○自分の持っている技術や知識を伝えるにあたって,どうしたらマラウイの風土に受け入れやすいモノになるかを考慮に入れ,実践していきます。
○目標として,マラウイ国全体の畜産の改善や躍進につながっていくことを期待しています。

『活動内容』
管轄地域の畜産状況の把握
管轄地域は,四方約80qの大きさで,要所要所(村内で四方32q以上の広さに,自動車を持たない状況で)に獣医スタッフが,かつては使われていたダニ熱予防のための「薬浴場」を付随している官舎に常時待機しています。普段は,担当地域で診療,家畜の飼養管理についての相談や移動証明書の発行などの業務に携わっています。
カスングタウンでの外来客の対応
 様々な問題,例えば,犬による咬傷,家畜移動の証明書発行,疾病家畜と小動物の診療依頼や新規就農についてのアドバイス<(*写真4)…あるEPA(普及事務所)で行われた農民との乳牛飼養についての会議>などの対処にあたりました。

写真4 農民とのミーティング

『飼養家畜』…主には牛・山羊・緬羊・鶏・豚など
○マラウイ国内では,飼養家畜の傾向についての地域差が,明確に存在しています。
 例えば,白人居住の多さからか,南部は乳牛飼養が盛んで,使用される精液受給も確実なルートが存在し,マーケティングも確立されているといった特徴を持っていましたが,私の任地にあたる中北部ではこれに対してはまだまだ未開で,模索段階途上です。
○私の任地,カスングでは,主に,牛,山羊,緬羊,鶏,豚,ホロホロチョウと兎が主に飼養されています。このうち,山羊飼養農家数がもっとも多く,鶏がそれに続いています。

<牛> 婚姻などの私用や牛車などの牽引用としてゼブ種(*写真5)

写真5 セブ種の牛車

 肉用のブラーマン種そして乳用フリージアン種が利用されています。
 活動中,幸いにも乳用牛飼養を開始する指導に関わり,農民グループによる牛舎建築(*写真6・7)に参加しました。

写真6 牛舎建築
写真7 牛舎完成(1F・・・牛飼養(2頭飼い),2F・・・乾草収納)

○飼養上の問題…疾病コントロールの難しさ
 ダニ熱…疾病の多くは,このダニ感染によるもので,雨季終了後から,かなりの数の診療依頼が殺到している状態でした。
○FMD…2000年は「カスング」から約130qの北部地域で,FMDが初発生し,疾病の南下が危惧されました。しかし,幸いにも発生地域内で,家畜の移動の禁止,家畜市場開催の中止やと殺の禁止などが早急に行われ,さらにこちら側でも検問所の設置や上記同様の措置が出され,なんとかFMDの侵入は免れました。このFMD発生は,隣国ザンビアからの罹患牛の移動によるものと判明したようです。

<山羊> 飼養しやすい在来種
○中小家畜として,飼養は盛んです。
○南部アフリカ中心の組織の援助によるプロジェクトが入ってきて,改良型飼養舎建設や疾病管理などの指導を受けながら,飼養が進められていました。
○改良種の山羊も他地域では飼養されているが,地域的にはまだまだ皆無に等しい状況です。
○飼養舎形態は高床式のものを推薦し,寄生虫感染の予防を呼びかけています。

<緬羊>
○山羊と同様,改良型飼養舎での改良種飼養を薦めていますが,疾病の多さや飼養管理の難しさから,なかなか飼養が進まないようです。
<豚> 在来種・改良種(ラージホワイト)
○飼養地域が国内で限局され,私の任地カスング内でも,飼養農家が多いところ,少ないところがあるようです。
○イスラム教徒も多いので,豚肉の販売は他の家畜肉に比べると少なく,村でも提供される食堂はあまりありませんでした。
○ASF(アフリカ豚コレラ)…ワチクンが存在しないので,この疾病の発生予防としてダブルフェンス型飼養舎を薦め,なるべく舎外での移動を避けるようにするしかないようです

<鶏> これからのマラウイを支えていく畜産産業と考えられる「養鶏」
○在来種の庭先養鶏も見られますが,改良種〔政府農場でのBA(Black Austrope:肉用鶏)や会社農場でのHyline(採卵鶏)〕の飼養にも目が向けられていて,資金に余裕のある農民は,何百羽の飼養羽数から始め,産卵・肉用鶏飼養を手がけています。
○「2010年までに80%の村々の小農家で鶏飼養を確立させよう」…マラウイの今後の展望
○鶏の需要はかなり多く,それによる供給が追いついていっていない状況の中,私の活動中でも,デンマークからの大きな援助プロジェクトが入り,盛んに飼養促進を図っていました(*写真8)

写真8 幼雛飼養カゴ

○獣医スタッフ(VA)による飼養指導の大部分を占めているようです。
○VAの持参している,マラウイ国内で組織立って供給されている薬品数も鶏に関するものが多いようです。
○また,飼養推進に従って,飼養管理の改善にも目が向けられ,ワチクン接種,早めの駆虫薬投薬や不足しがちなビタミン供給などが率先して実施されています。もちろん,飼養舎の改善(高床式や通風性に富んだもの)も試みられています。
○発生している疾病…ND・ガンボロ病・鶏痘・伝染性コリーザなど

<ほかの家畜> ホロホロチョウ,兎,あひるや鳩など
○ホロホロチョウは,昨年あたりから需要が少しずつ増えてきていたが,供給が難しいので,近隣から購入しているといった状態でした。鶏と同じ鳥類なので,同様の疾病コントロールが必要であるが,鶏より抵抗性があるという一説からか,現在はあまり大々的には診療依頼されてきていないようでした。
○兎は,肉用として飼養されています。おおよそどの地域でも飼養されていて,今のところ,大きな疾病発生などは報告されていないようです。

 活動期間の二年間の問題として,スタッフ数の欠如,移動手段の貧弱さなどスタッフの業務遂行への障害の多さや自分側からの会話力(公用の英語と村でのチチェワ),マラウイ文化の無知や経験不足などの力不足があり,多くの面で歯がゆい思いをしました。配属機関であった事務所を管理していくという業務も大切で,日本人的な感覚からの手直しも有効であったように思うが,できればもっとフィールドでの専門分野の移転を行うべきであるように思いました。
 そういったなかで,私は,全体を通しての総合的な職務の流れを作りたく,新しいモノを取り入れるばかりでなく,まずは以前からあったと思われるものの改善を図る努力を行ってきました。
 マラウイには,今までの長い生活の歴史があり,彼らなりのペースや考えが根底に存在しています。それを無視しての活動なんて必要ないのです。じっくり,彼らの様相を観察する事から活動を始めました。彼らの「ゆっくりとした」時の流れに合わせて…。

マラウイ人の国民性

 「ゆっくりゆったりの先を急がず,くよくよせず気に止めず,働きすぎず,でも一番大事な人間的な心が自然の一部となり,いつまでも大地を踏みしめていく,まさに「牛」のような農民」。
 このような国民が決してあきらめもせず,遅々とはしているが改善に向かって,少しでも多くのアイデアを吸収しようとする意気込みが感じられました。
 私が小さい頃から憧れていたアフリカ大陸にある小さな国「マラウイ共和国」で,広い広い大空のもと,みんながこの国の発展を願っているなか,協力隊員として派遣され,形にはならないけれども,畜産の発展に少しでも寄与できたという自負と,活動を無事に終えられた事を感謝しています。また,今年はマラウイ共和国から岡山県に研修員を受け入れていただき,すでに彼の研修も始まっています。彼が日本での様々な経験をもとに多くのことを吸収し,帰国してからのマラウイ共和国の先駆者となることを期待したいと思います。