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〔特集〕

「養豚情勢と岡山県の養豚振興について」

岡山県農林水産部畜産課 食肉鶏卵係

1 はじめに

 近年の養豚界は,環境三法の成立に伴い経営を足元から見直す必要がある一方で,消費低迷と流通業界の広域的な競争激化による販売価格の低迷,また欧州での狂牛病,口蹄疫の発生や遺伝子組み替え飼料等の報道により,より安全な豚肉生産が消費者から求められるなど,生産から流通を通じて様々な課題を抱えています。
 このような状況にあるものの,近年豚肉は健康志向にマッチした食材として消費の拡大が期待されていることから,生産者にとっては,さらに安全で品質の高い豚肉の安定的な生産に努めていく必要があります。

2 最近の養豚情勢

 英国に発生した口蹄疫の影響で輸入豚肉価格が高騰する中,国産豚肉は春から堅調な価格推移を示しました(〔市況〕参照)。
 輸入豚肉は,欧州の代わりに増加した北米産の輸入量が欧州産の解禁後も減少せず,豚肉とその加工品の輸入が急増,平成13年度第1・四半期の輸入量が関税の緊急措置発動基準数量を超えたため,8月通関分から来年3月末までの基準輸入価格引き上げによる緊急措置(セーフガード)が発動されました。

3 本県の養豚対策

 岡山県では,飼育戸数及び頭数の減少並びに長期的な価格低迷,さらには新たに家畜排せつ物法に沿った設備投資が求められる中,生産性の高い養豚経営体を育成するために以下の支援対策に取り組んでいます。

 ア)肉豚の価格安定対策事業

 生産者等の積立金と県の助成による基金によって,豚価が地域保証価格を下回った場合に保証価格との差額の90%を補てんし,肉豚生産者の経営を安定させる仕組みです。全国事業の「地域肉豚生産安定基金造成事業」とも連動し,価格の暴落時に県の積立金が枯渇した場合でも安定基金発動基準価格を下回った部分の補てんを行います。
 近年,肉豚価格が低迷する中で,昨年度は基金のほぼ全額を補てんして経営を支えました。本年度の一般豚の地域保証価格は411円/sとなっております。

 イ)養豚団体活動助成と養豚振興基金の造成

 県生産者団体である岡山県養豚振興協会の活動助成を行います。また,地域に応じた養豚振興事業として,簡易施設の整備や消費促進活動などを展開するための基金造成に対して農畜産業振興事業団と一体で県も助成を行っています。

 ウ)県有種豚の導入

 県内の養豚農家に,県総合畜産センターで生産した種豚及び人工授精用精液を供給することで産肉性・繁殖性の向上を図っています。現在,黒豚(バークシャー種),デュロック種を中心に,県外先進地からの血液導入も行い能力向上に努めながら,農家への種豚供給を行っています。

 エ)おかやま黒豚の増産と銘柄推進

 「おかやま黒豚等産地作り推進事業」で意欲ある生産者の種豚導入,簡易施設整備に対する助成を行い産地拡大を図る一方,「おかやま黒豚銘柄推進事業」ではH11年度に設立された「おかやま黒豚銘柄推進協議会」をはじめ関係団体と共に消費拡大,銘柄化と生産性向上を図っており,昨年度は指定店登録制度が開始されました(現在計28店舗)。

4 これからの養豚振興

 県内で生産されている肉豚を大きく分類すると@全農系の一般造成豚(65%,うちSPF豚(注)が約15%),A商系の海外合成豚(30%),B黒豚(4%)となっております(H12年調べ)。
 @は本県養豚の根幹と云え,人工授精の普及定着や省力的な飼育管理等による低コスト生産,優良種豚の導入による肉質向上と斉一化に努め,銘柄豚「おかやまポーク」を中心に販路拡大を推進します。
 近年生産が増加傾向にあるSPF豚については,今秋,哲多町に新農場が竣工予定であり,H14年度からは年間10,000頭の肉豚出荷が見込まれるなど,肉豚生産基盤の拡大が期待されます。

 (注)SPF豚…生産性を阻害する特定の疾病を取り除いた環境で飼われた健康な豚。特定疾病とは,わが国では,1)マイコプラズマ性肺炎2)豚萎縮性鼻炎3)豚赤痢4)トキソプラズマ病5)オーエスキー病の5つ。

 Bの黒豚については,銘柄確立のための大きな課題として“定時定量出荷の実現”が挙げられ,その第一段階として昨年度より前述の黒豚関係事業において能力や斉一性の一層の向上を図るため肉質,肥育,繁殖等のデータを収集しています。これらの分析と併行して優良種豚の供給,産地作り等増産対策,協議会を中心としたPR対策により,銘柄競争に勝ち残れるブランド作りを進めます。
 現在の黒豚生産農場は6戸,H12年度生産頭数は2,000頭ですが,イギリスからの導入種豚を活かして,独特の風味と肉のやわらかさなど「おかやま黒豚」の特徴ともいえる食感を獲得できましたので,今後は“うまみ”を全面に押し出した岡山の高級銘柄豚肉として,販売店,料理店等への販路拡大にも努めながら,さらなる生産の拡大を推進します。

5 おわりに

 昨年度,岡山市内で開催された消費拡大イベントでのアンケート結果からも,消費者の食肉に対する品質,安全性(生産元が判る)への期待がうかがえることから,生産から流通に至る関係者・関係機関が一層連携を深め,量販店等でみられる産地銘柄肉競争の中で生き残っていくことがこれからの養豚振興に不可欠だと考えます。引き続き皆様のご理解とご協力をお願いします。