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自動搾乳システム(搾乳ロボット)は,酪農において最も労力を要する搾乳作業を,人に代わって行うエポックメイキングな酪農システムとして注目されている。
しかし,搾乳作業を機械に任せることへの不安や,多大な設備投資を要するため,導入に対しては慎重論が根強い。(搾乳ロボットについては,本誌平成12年10月号に,佐藤和久氏の紹介記事がある。)
「搾乳ロボットを導入して,儲けになるのか?」そんな声に答えるべく,搾乳ロボットの採算性について考えてみたい。
搾乳ロボットの運用は,フリーストール牛舎での飼養が前提となる。
牛は自主的に搾乳枠(ストール)に入り,ロボットによる搾乳対象(前回の搾乳から一定以上の時間が経過した牛)かどうかの選別を受ける。搾乳対象牛には,乳頭の洗浄,ティートカップの装着,前搾りを経て,搾乳が始まる。
搾乳中の牛には,泌乳状態に合わせた濃厚飼料が給与され,牛はこの飼料に引かれるのと,乳房の張りによる搾乳願望から,搾乳ストールに入ってくる。
搾乳対象とならない牛や,搾乳の終わった牛は,ストールの外へ出され,次の牛を待つ状態となる。
搾乳回数は個々まちまち(牛と機械任せ)であるが,1日に3−4回搾乳される牛が多く,1日2回の通常の搾乳に比べ,10〜20%乳量が増加するといわれている。
搾乳ロボット稼動の最大のポイントは,“牛が自分から進んで搾乳ストールに入る”ことである。このためには,最初は人が搾乳ストールに誘導し,そこが心地良い搾乳の場であること,搾乳中には濃厚飼料が与えられることを教え,また他の牛が搾乳ストールに入っている様子を見せて,自ら学習させる。
また,フリーストール牛舎を「一方向ゲート」で区切り,TMRの区→水飲場の区→「搾乳ストール」→TMRの区,の順にしか移動できないようにする。水飲み場の牛がTMRを食べに行くには,「搾乳ストール」を通過しなければならない,というように−。
このような教育をへて,牛はロボットによる搾乳システムに馴致し,人は搾乳作業から解放される。
搾乳ロボット導入の主たるメリットは,@労働量の軽減A生産乳量の増加である。これらのメリットと,導入に掛かる経費とを,試算対比し,搾乳ロボットの採算性を検討する。
(1) 算定条件
既存の酪農家において搾乳ロボットを導入し,合わせてフリーストール牛舎,バルク室・事務室を新設し,搾乳ロボットが十分稼動できる環境を整えるものとする。
なお,各項目別の数値と,その設定理由は以下のとおりである。
@ 飼養頭数:搾乳牛60頭 現在最も多く稼動しているタイプの搾乳ロボットの,1台当たりの対応能力が搾乳牛60頭であり,1台の搾乳ロボットを能力いっぱい稼動させる飼養規模とした。 |
A 通常の搾乳(2回/日)での平均乳量:8,758s/年 平成10年度乳用牛群能力検定(立会検定,4,944頭)での,岡山県内飼養ホルスタイン種の平均乳量を用いた。 |
B ロボット搾乳(多回搾乳)での乳量増加率:10%と15%で試算 乳量増加率は,農場の差が大きく,10〜20%と考えられている。 今回は,10%と15%の2つのケースで試算した。 |
C 労働賃金:14,000円/日 ホクラクヘルパー運営協議会(事務局:ホクラク農協(津山市川崎94−1))の,平日でのヘルパー利用価格を用いた。 |
D 一般農家の搾乳生乳処理時間:66.3時間/頭/年 平成10年版岡山農林水産統計年報より引用した。 |
E 搾乳ロボットにより短縮される搾乳生乳処理時間:49時間/頭/年 ロボット稼働中も,機械の監視,データのチェック,パソコン画面に表示される問題牛(搾乳ストールに入らない牛,ティートカップの装着ミスが続く牛等)への対応が必要で,人による作業が無くなるわけではない。年間1頭当たりこれらの作業に要する時間は,農場による差が大きく,11〜23時間/頭/年であった。 このため中間値17時間を用い,「一般農家の搾乳生乳処理時間:66.3時間/頭/年」との差を求め,搾乳牛1頭当たりのロボットによる短縮時間とした。 |
F 搾乳ロボット及び関係施設等に要する経費:6,301千円/年 搾乳ロボット導入に合わせ,フリーストール牛舎(牛床60,バーンスクレーパ設置)及びバルク室・事務室を新設する。 |
G 乳量増加に伴う飼料費の増加分 平成10年度乳用牛群能力検定成績より,1頭当たりの年間濃厚飼料給与量3,892s,飼料単価40円とし,乳量増加と同じ割合で飼料費も増加したものとして試算した。 a.乳量10%増加の場合の飼料費増加分 935,000円 3,892s×10%×40円×60頭 =934,080円 (百の位切り上げ,935,000円) b.乳量15%増加の場合の飼料費増加分 1,402,000円 3,892s×15%×40円×60頭 =1,401,120円 (百の位切り上げ,1,402,000円) 搾乳ロボットでの飼料給与システムは,全群共通の薄いTMRと,搾乳ストール内で,泌乳量に合わせて給与する濃厚飼料(ロボットがコントロール)で,個体別に必要量に合わせて給与するコンピューターフィーディングである。このため,一般の飼料給与に比べ過不足が無く,ロボット導入後の乳量増加に合わせて飼料費が増加したとの事例は聞かれない。 |
H 農家の手取り乳価:85円/s 平成12年度基本農家手取額,ホクラク調べ。 |
I ランニングコスト 搾乳ロボットのランニングコスト(光熱水費)は,農場による差が大きく,612,000円から1,160,000円(60頭当たりに換算:酪農総合研究所)とされている。一方平成10年版岡山農林水産統計年報での搾乳牛1頭当たりの光熱水費は,18,098円で,60頭だと,1,085,880円となり,両者の差は無いと思われる。 |
(2) 推定増収額
@ 乳代の増加分 a.乳量10%増加の場合の増収額: 4,466,000円 乳量が10%増加した場合,年間52,740s(8,758s/頭×10%×60頭=52,548s)の増加となり,その乳代4,466,580円(52,548s×85円/s=4,466,580円)が増収となる。(百の位切り捨て,4,466,000円) b.乳量15%増加の場合の増収額: 6,699,000円 15%増加の場合は,年間78,822s(8,758s/頭×15%×60頭=78,822s)の増加となり,その乳代6,724,350円(78,822s×85円/s=6,699,870円)が増収となる。(百の位切り捨て,6,699,000円) |
A 労賃の軽減 搾乳ロボットによって,年間1頭当たり49時間,群全体(60頭)では,2,940時間の労働量の軽減となる。(49時間/頭/年×60頭=2,940時間/年) これは367.5日(2,940時間÷8時間/日=367.5日)に当たり,5,145,000円(14,000円/日×367.5日=5,145,000円)の労賃削減となる。 |
(3) 増収合計
乳代の増加分と,労賃の削減された分を合わせた,搾乳ロボットによる年間増収額は次のようになる。
@ 乳量10%増加の場合:9,611,000円/年 4,466,000円(乳代分)+5,145,000円(労賃分)=9,611,000円 |
A 乳量15%増加の場合:11,844,000円/年 6,699,000円+5,145,000円=11,844,000円/年 |
(4) 償却費等搾乳ロボット導入により増加する経費を差し引いた後の収益
@ 乳量10%増加の場合:2,375,000円/年 9,611,000円−(5,101,000円+1,200,000円+935,000円)=2,375,000円 |
A 乳量15%増加の場合:4,141,000円/年 11,844,000円−(5,101,000円+1,200,000円+1,402,000円)=4,141,000円 |
試算の結果,搾乳牛60頭をロボットで管理することにより,年間2,375,000円から4,141,000円の増収が期待でき,搾乳ロボットは十分採算性があると考えられる。
ただし,この試算は,ロボットが100%その機能を発揮し,総ての牛がロボット搾乳に馴致している状態を前提としている。
機械はうまく使って,その能力を十分活用するのが当然ではあるが,搾乳ロボットにおいては,トラブルも多く聞く。自分から進んで搾乳ストールに入れない牛,乳頭の形状配列が悪く,ロボットでの搾乳に向かない牛も少なくない。
また,ロボットによる増収部分の内,5,145千円は,労働の軽減によるものである。したがって,空いた時間を有効に活用しないと,搾乳ロボットの採算性も怪しいものとなる。
結局,搾乳ロボットの採算性は,その運用方法に掛かっているといえる。
搾乳ロボットを有効に活用し,確実に増収を得るには,フリーストール,ミルキングパーラ方式の農家に,増頭対策としてロボットを導入するのが最も良いと考えられる。
パーラー経験牛の中から,若くて,乳頭の形状配列の良い牛60頭を選抜し,ロボット搾乳群を作る。
パーラー経験牛は,ロボットへの馴致も早く,ロボットは能力いっぱい稼働でき,搾乳牛群にもトラブル牛がいない状態となる。
ロボットによって軽減された労力は,増頭された牛の管理に向けることができ,人手を増やすことなく50〜60頭の規模拡大が可能となる。
生乳増産と低コスト生産が強く求められる今,労働量を軽減し,増頭と個体管理の強化を可能にし,各個体の泌乳能力を十分引き出すシステムとして,搾乳ロボットは大変魅力的である。
酪農家のみなさん,搾乳ロボットは総ての経営に向くシステムではありませんが,あなたの経営ではいかがですか。