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家畜ふん尿を利用して生ゴミの堆肥化をすすめよう

岡山県総合畜産センター     
環境衛生科  内田 啓一

1 はじめに

 ここ数年来の地球温暖化,ダイオキシン問題などから,社会全体の環境に対する意識が高揚してきました。地域社会においては,産業廃棄物処分場の設置等で住民と業者の協議が難航している様子がたびたび報道されています。
 このような背景から,国は2000年度を「リサイクル元年」と位置付け,これまでに数々のリサイクル法を制定してきました。
 なかでも,生ゴミの堆肥化及び飼料化促進を目的として「食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律(通称:食品リサイクル法,H13.5.1施行)」が新たに制定されました。この法律により,生ゴミからできた堆肥や飼料の利用が今後一層進んでいくと思われます。このような社会情勢に対応するため,総合畜産センターでは本年度から,生ゴミの堆肥化に関する試験を行っています。

2 生ゴミについて

 (1) 生ゴミの発生量

 家庭から出る生ゴミは1日1人あたり約250gであり,平均的な4人家族の家庭では1日あたり約1㎏の計算になります。これを全国的に見れば,年間で1,000万トンを超す生ゴミが発生していることになるのです。さらに食堂などの事業所から発生する量を加えると,年間2,000万トンに及ぶ膨大な量になると考えられます。これは家畜ふん尿の発生量(9,000万㌧/年)の2割に匹敵する量であり,ワラ類の1,100万トンよりもはるかに多い量です。

 (2) 生ゴミの養分組成

 生ゴミの成分は,その種類が非常に多いためにばらつきが大きくなりますが,乾燥した生ゴミの無機成分は窒素3~6%,リン酸1~2%,カリ1~4%程度含まれるというデータもあり,牛ふん堆肥以上の肥料成分を含んだ良質な肥料なのです。

 (3) 生ゴミの肥料効果

 東京農大が生ゴミ堆肥(ホテルごみ)を用いてホウレンソウの栽培試験を行いました。その結果を表1に示しています。生育と収量については,化学肥料施用区および鶏ふん施用区と比較して遜色ない結果が得られたと報告しています。加えて,生ゴミ堆肥区に限りビタミンCが特異的に多いという結果も出ており,このことからも生ゴミ堆肥は十分肥料効果が期待できる堆肥だといえます。

3 家畜ふん尿との混合堆肥化のすすめ

 生ゴミの堆肥化時に問題となるのは異物の混入ですが,それ以上に問題となるのは高水分と汚物感です。
 現在,堆肥といえば牛ふん堆肥が連想されるほど,家畜ふん,特に牛ふん堆肥はポピュラーな肥料となっています。ホームセンターでも気軽に購入し家庭菜園に使用されているなど,牛ふん堆肥は抵抗なく受け入れられているという現状があります。また,各地に大型の堆肥センターが建設されており,大量生産,大量流通のシステムも確立されています。
 原材料が多種多様で汚物感のある生ゴミをスムーズに処理し,安心して利用できる堆肥とするには,堆肥センターにおいて牛ふんなどの家畜ふんと一体処理することが最も有効で,かつ畜産農家の存在をアピールできる方法であると考えられます。

4 畜産センターでの取り組み

 岡山県総合畜産センターでは,来るべき食品リサイクル法及び家畜排せつ物法同時解決の切り札として,本年度より家畜ふんと生ゴミを一体的に堆肥化するシステムづくりの研究を行っています。具体的には,

① 生ゴミ堆肥化時に一番のネックとなる水分を低下させる(低水分生ゴミの収集)
② 収集・運搬労力の低減を図るため,生分解性の収集袋を用いる(汚物感の低減)
③ 県内初の生ゴミ+家畜ふん一体処理システムを確立し,モデル実証する(システム化)

といった3つの柱から成り立っています。

 (1) 低水分生ゴミの収集

 生ゴミの脱水特性を探るため,レストラン生ゴミを用いて24時間の実験室内脱水試験を行いました(図1)。その結果,自然堆積で約1割の脱水が認められました。また,経時的な脱水状況を分析すると,単位時間あたり脱水量が試験開始直後に最大になるものや,15~16時間経過した後に最大になるものなど,一見同じように見える生ゴミでも性質の異なるものあることが分かりました(図2)。
 次に,均一な試料であるオカラをもちいて加重による検討を行いました。

図1 実験室内における生ゴミ脱水試験風景
図2 24時間脱水試験で得られた2つの脱水パターン

  ア.24時間脱水試験

 オカラ(87%に水分調整したもの)を図1の試験容器内にそれぞれ3㎏投入し,重石を置かない自然脱水区(以下自然区)と,6㎏の重石を置く加重区を設けて脱水量を経時的に測定しました(図3)。正確を期すために,それぞれの区において3反復しています。その結果,加重区では開始後約1時間以内に総脱水量の約50%が脱水され,24時間経過後では自然区の2倍以上脱水できるなど,加重の効果が明確に認められました。

図3 オカラ(水分87%)

  イ.3日間連続投入試験

 毎日1回の投入で3日間貯めるケースを想定し,3日間の連続投入時における脱水状況を検討しました(図4)。試験区には,加重を行わない自然区と,試験開始時から試験終了時まで常時加重を行う区(以下常時加重区)を設けました。その結果,常時加重区において全体の脱水量は多くなりましたが,投入回数を重ねる毎に両区の差は小さくなり,加重の効果は低下しました。
 このように,常時加重による脱水は目詰まりによる脱水抑制が課題となり,この結果を踏まえて次の実験を行いました。

図4 3日連続投入における脱水試験結果

  ウ.常時加重と最終日加重

 常時加重時における目詰まりに起因する脱水抑制を防止するため,最終日のみ加重する効果を検討しました。試験区には,常時加重区と,3日目のオカラを投入した後に加重を開始する区(最終日加重区)の2区を設けました。その結果を図5に示しています。最終日加重区において,加重直後(48時間経過時)から単位時間あたり脱水量が増加し,最終的には常時加重区の約130%の脱水量となりました。この結果より,目詰まりを防止し,かつ加重脱水の特性を活かすには時間を制限して加重することが重要と考えられました。
 今後はこれらの実験結果をもとに収集容器を試作し(図6),現地実証していく予定としています。また,引き続いて様々な生ゴミを用いて脱水,臭気等についてデータ収集を行い,システム化について検討していくこととしています。

図5 過重時期の比較
図6 生ゴミ脱水容器による脱水試験
(写真上)(写真下の容器は脱離液)

 (2) 汚物感の低減

 生ゴミの収集・脱水・運搬を効率的にすすめるキーワードは「ワンタッチ」にあると思います。手軽に生ゴミを扱えることこそが処理をスムーズに行う第一歩だと考えるからです。具体的手法としては,収集容器にゴミ袋を取り付け,投入するという方法です(図7)。使用するゴミ袋は透水性に優れ,かつ生ゴミを包んだまま堆肥化できることを前提条件とし,現在ポリ乳酸という素材を用いて実用化に向けた研究を民間企業と共同で行っているところです。また,ポリ乳酸製ゴミ袋の分解速度を検討するため,畜産センター内の堆肥舎で発酵温度等の関連等も含め試験中です(図8)。

図7 脱水容器に生分解性収集袋を取り付けたところ(左)
右側は蓋(中央に重石を取り付け,過重脱水を行う)
図8 生分解性収集袋の分解試験写真
(試料を金網で挟み,堆肥中に埋設)

 (3) システム化

 平成13年12月より旭町内から生ゴミ収集を開始し,当センターで稼働しているスクープ型堆肥化施設においてシステム化に向けた実証試験を行っていく予定です(図9)。

図9 畜産センターで稼働中のスクープ型堆肥化装置

5 おわりに

 住民の環境に対する意識も徐々に高まってきている今日,環境に優しい社会を創造するには絶好のチャンスだと思います。生ゴミは「ゴミ」ではなく「資源」であるという発想で,畜産経営が鍵となる地域資源のリサイクルをすすめることが重要です。
 これを実現するためにも,現在畜産センターが行っている実証試験が大きな意味を持ってくると考え,研究に取り組んでいるところです。