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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所  
山    護

 患畜の治療を済ませ一寸お茶を頂くが,近頃の話題は決まって,今世間を騒がせている「狂牛病」(BSE)のことである。そもそも病名からして良くない。影響は生産者,消費者をはじめ卸・小売,外食,加工食品など広範囲に及んで深刻な事態となっている。話も普段と違い,何となく落ち込んでしまう。
 97年のO-157に始まり,雪印乳業の黄色ブドウ球菌問題,口蹄疫と,近年畜産界における異変とも思われる事態が続き,マスメディアを通じ世間を不安に陥れている。
 特に今回のBSEの発生は,日本中に大きな衝撃と影響が見られている。何よりも一般消費者の反応が敏感で,牛肉の消費が激減してしまった。風評被害が大きいとし,有志の国会議員による「牛肉を大いに食べる会」が開かれ,「百パ-セント安全,どんどん食べてほしい」と訴えたが,時期尚早とも思われ,消費者の不安は拭えなかった。また,肉骨粉を牛に食べさせていたと言ういわゆる「共食い」の実態にも,リサイクル的意義の善悪は別として,消費者は衝撃をうけている。
 縦割り行政の弊害,規制の手ぬるさとか,事をあまりに表に出しすぎるからだとか,さまざまな論評がなされているが,農相も行政の不手際を認め,厚生労働相は一日も早い改善の努力を約束している。
 そして,BSEの騒ぎを上回って報道されているのが,アメリカのテロ事件とそのアフガニスタン・タリバ-ンに対しての報復,さらに関連性が疑われている炭疸菌感染である。この炭疸病がまたやっかいで,過去我が国での発生も見られており危惧している。
 今日流通が全世界に及ぶ時代,他国の出来事が対岸の出来事ではないことを自覚し,こと食品に係わるものについては,百パ-セント安全に供給出来る体制を確立する事が重要であることを,今回の事件を教訓に再認識させられた。
 牛肉の消費量の激減,出荷停止により,肥育農家の方にとっては大きな打撃となり,ひいては畜産農家全体にその影響が及んでいる。
 これまでにないと畜場の閉鎖には困惑したが,肉骨粉など動物性飼料を与えられていた可能性のある牛は,全国で1万頭を越えているとされていることより,早期に検査体制を整え,解体牛全頭の精密検査を実施すること,および肉骨粉の輸入停止,レンタリング工場での肉骨粉の製造・出荷の停止,1万3千トンのストック牛肉の一時買い上げ等の適切な処置がなされた。一方で,千葉県で発見された感染牛の感染経路の究明,肉骨粉の肥料としての安全性,牛の個体識別の導入,解体処理方法,検査処理能力,検査・処理コストの生産者への跳ね返り,「疑惑牛」の公表等残された課題も多く,消費者の不安を払拭するにはまだまだ時間がかかると思われるが,日本人の食生活において,牛肉はすでに定着しており,消費者にとっても,一日も早く安全な牛肉を待ち望んでいることは確かであり,昨年度の口蹄疫では,わずか3カ月足らずで清浄国に復帰したように,安全宣言がなされた今,万全な防疫体制を保って早期の回復を願い,畜産に携わる者の一人としても,上述の疾患は無論,ヨ-ネ病,サルモネラ症,流行性の下痢症,RS,IBR,蔓延するコクシジウム症等,感染性の疾患が多く見られる今日,早期の発見と対処,農家への予防等の啓蒙に努力しなければいけないと思う。