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受精卵の保存

岡山県総合畜産センター 経営開発部先端技術科

 研究員 有安 則夫

 受精卵の保存は受精卵移植の時間的,地理的条件を補う重要な技術として研究が行われてきましたが,その方法は大きく次のように分類されます。

1)保存方法とその特徴

低温保存法 ……… 受精卵を常温あるいは低温で保存する方法として開発されましたが,長期間の保存は不可能でした。
超低温保存法 ……… そこで,長期間の保存に耐えられるように液体窒素中の超低温(−196℃)で保存する方法が開発され,半永久的な保存が可能となりました。
凍結保存法(緩慢凍結法) ……… プログラムフリーザーという器械を用いて受精卵を凍らせる手法で,現在広く利用されています。
融解後の耐凍剤の除去方法によって大きく3種類に分けられます。
ステップワイズ法 ……… 耐凍剤の段階希釈液を用いてシャーレ内で耐凍剤の除去を行う方法です。耐凍剤除去時の受精卵に対する浸透圧ショックが少ないため,生存性が高いと言われていますが,実験室等の衛生的な設備が必要なため野外での普及性に欠けました。
ワンステップ法 ……… それを補うため受精卵をストローから出さないで耐凍剤の除去を行う方法が考えられました。すべての操作をストロー内で行うので庭先融解が可能でしたが,ストローを指ではじいてシュークロースと混和する際にある程度熟練が必要で,技術者による受胎率のムラが生じやすく普及への障害となりました。
ダイレクト法 ……… そこで考案されたのがダイレクト法と呼ばれる手法です。これはストロー内で耐凍剤を除去することなく融解して直接移植が行える方法です。融解後移植までの時間が長いと受胎率の低下を招く可能性がありますが,いっさいの操作が必要ないので,庭先で簡易に実施が可能であり現在一般的に用いられている手法です。

 このように凍結技術は改良が重ねられてきましたが,現在普及が望まれている性判別や核移植など胚操作した受精卵の凍結方法としては十分ではありませんでした。

2)ガラス化保存法の開発

 そこで新しく開発されたのが受精卵を高濃度の耐凍剤溶液に直接浮遊させ,そのまま液体窒素に浸して保存するガラス化法と呼ばれる方法です。

ガラス化保存法

 主な長所としては
  @ 低温障害が少ないため受精卵の生存性が高く,性判別受精卵などの保存に有効である
  A 高額な凍結器が必要なく凍結液と液体窒素があればどこでも凍結ができる
  B 凍結にかかる時間が一卵当たり3分と短く,時間の短縮がはかれるなどです
 短所として,
  @ 高濃度の耐凍剤を使用するため,ある程度の技術の熟練が必要となる
  A 移植前に耐凍剤の除去が必要なためダイレクト移植ができないなどがありますが,その汎用性から急速に普及してきている技術です

3)クローン技術への応用

 さて,このガラス化保存法はクローン技術での応用に期待が持たれています。現在,クローン技術は過大児や流産の発生,産子の斉一性等,様々な課題を抱えています。この原因の一つとして,クローン受精卵を作成する際に供核細胞の受け皿となる受核卵子(未受精卵子)中のミトコンドリアDNA(mtDNA)の影響が考えられています。これを究明するために経膣採卵を利用した同一個体の作出が望まれますが,経膣採卵で確保される卵子数が少数のため進展していませんでした。また,その受け皿となる未受精卵子についても食肉処理場での処理頭数に左右され安定して確保できなかったことから,凍結保存による安定確保が望まれるようになりました。しかし,未受精卵子はほ乳類の細胞の中で最も大きく,氷晶による傷害を受ける可能性が高い上に,短時間の低温感作によっても発生能が著しく低下するなど,従来の凍結方法は利用できませんでした。

 しかし,この未受精卵子の凍結も,ガラス化保存法の一種でマイクロドロップレット法(MD 法)という方法により大きく改善されてきています。これは未受精卵子を平衡液で10分間平衡した後,ガラス化溶液中で30秒中に3回洗浄し,30秒経過した時点で先を細くのばしたパスツールピペットを用いて液体窒素上にガラス化溶液とともに未受精卵子を滴下することで,ガラス化を行う方法です。この MD 法により今まで技術的に不可能といわれてきた未受精卵子の凍結が可能になり,これによりクローン技術もますます発展していくものと思われます。

4)総合畜産センターでの取り組み

 前述した未受精卵子をはじめ,体外受精卵やクローン受精卵などについても今後さらに利用が増えると考えられ,凍結保存の確立が望まれています。総合畜産センターにおいてもこれらの試験研究に取り組んでいるところです。また,一部の技術についてはすでに実用化されているものもあります。一例を挙げれば性判別した受精卵の凍結保存もその一つです。今まで様々な方法により凍結保存が試みられましたが,なかなか受胎率の向上には結びつきませんでした。しかし,新技術のガラス化保存法により,現在では新鮮な性判別受精卵と同程度の受胎率が得られるまでになり,すでに数十頭からの分娩にまで至っています。
 今後,受精卵の利用は更に進むと思われ,そのためにも高い受胎性を確保できる凍結技術の確立が不可欠と考えられます。当センターにおいても凍結技術,なかでも MD 法などガラス化保存法のさらなる確立に向けて改良に取り組んでいきたいと考えています。