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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

津山家畜診療所 西川 達也

 昨今の畜産界は,一昨年の口蹄疫に始まり,牛乳による食中毒事故さらに畜産界を震撼させたBSE(牛海綿状脳症)問題など,畜産界だけに留まらず社会的な問題に発展し,まだまだ解決しなければならない問題が山積みされています。
 今年の冬も暖冬なのか,お正月に思わせぶりの雪が降ったものの,例年に比べ暖かい日が続いています。しかし,暖かいとは言うものの日中と夜の寒暖の差は大きく,子牛にとっては厳しい過酷な環境なのでしょう,日々の診療は相も変わらず「小児科病棟24時」状態で,一日の診療の半分は子牛の下痢と肺炎の治療に奮闘する毎日です。
 西高東低の冬型の気圧配置が強まったある朝,「子牛が下痢をしているので診てほしい」との往診依頼が相次いで入ってきます。中には一軒の家で3,4頭も下痢をしている家もあり,重症の牛もいるとの事で補液も頭数分用意して往診に出ます。
 下痢の原因は感染性のものと非感染性のものに分けられます。一般に「白痢」と呼ばれるものは大腸菌の感染によるものであり,その他サルモネラ,ロタウイルス,コロナウイルスあるいはコクシジウムなどの感染によって起こります。また,非感染性の下痢の発生には,ミルクの過剰給与,乳質の不適合,飼養環境や気象の急変などのストレスなどが関与しています。
 農家に到着し,早速診察を始めます。生後10日目の子牛が今朝から様子がおかしいとのこと。元気は有るもののやや発熱し,黄白色泥状の下痢をしている。寒さが原因と考えられ,下痢止めと抗生物質を注射し,保温の重要性を説明して次の農家へと走ります。ここの農家は多頭飼育を行っており,大腸菌やコクシジウムが常在するうえに発見の遅れから重篤な症状に陥る子牛が多く発生します。今日の診察でも4頭中2頭は下痢による脱水症状が進行しており,うち1頭は体温の低下を認めるまでに衰弱しています。糞便は黄褐色の水様で元気もなく皮膚温の低下,尾部の汚染を認めるために,あらかじめ保温しておいた補液剤を注射し,第一に脱水の改善を行いながら原因療法も並行して治療していきます。治療後の看護の仕方により予後に大きな差が出てきます。原因を除去し,他の子牛への伝染を防ぐために下痢の牛は隔離し,断乳,保温,経口補液剤の投与を実施することでより一層の治療による効果を期待することができます。
 暖冬のためか,ここ数年子牛の下痢に対する農家の予防意識が薄まっているように感じます。子牛は何も武器を持たずに生まれてきます。そんな子牛が安全に快適に成長できるように十分な武器を与え,快適な環境を与えてください。初乳は生後早い時間に十分給与されていますか。また,大腸菌性下痢の予防ワクチンを使用し,抗体(武器)の上昇した初乳を給与していますか。牛舎の消毒は定期的にできていますか。今一度,子牛の目線で子牛の立場に立って見直してみてください。新たな問題点が見つからない限り,子牛の下痢は無くならないでしょう。