ホーム岡山畜産便り > 岡山畜産便り2002年3月号 > 家畜診療日誌

〔共済連便り〕

家畜診療日誌

家畜臨床研修所 谷 孝介

 家畜臨床研修所は,平成6年より検診車,血液検査機器等を導入し牛群健診を行っています。
 当初は,酪農家の問題解決のため,繁殖状況や問題となる泌乳ステージにいる牛の血液検査を行い,その結果により問題牛の摘発,改善に注視し検診が行われました。
 現在は,『健診』として実施し,健康と思われる泌乳ステージ(泌乳初期・泌乳最盛期・泌乳中期・泌乳後期・乾乳期の各5頭)の牛25頭を採血し,牛群検定データ(MUNも併せて測定のもの),繁殖状況のデータ,BCS,給与飼料の状況等から現在飼育されている牛群の健康状態を確認しています。

 @血液検査では,Ht(貧血,飲水状態),Glu(エネルギーの不足,ストレス),FFA(1日単位のカロリーバランス,体脂肪の動員),BUN(週単位の給与飼料の蛋白不足,エネルギーとのバランス),Alb(半月〜1ヶ月間のアミノ酸枯渇),Glb(慢性炎症),Ca(給与飼料のミネラル),P(給与飼料のミネラル,低Ca関与),Mg(乾物摂取),T−Cho(周単位のカロリーバランス),GGT(慢性肝機能障害),GOT(急性肝機能障害)を調べ,牛群の状況をみます。
 A乳検データから乳量(平均的な(近似曲線の)流れ,飛び出し乳量),乳脂肪率(粗濃比の減少からルーメンアシドーシス,脂肪動員),乳蛋白率(栄養不足),P/F(ルーメンアシドーシス,栄養不良),乳蛋白率とMUN(栄養バランス)をみます。
 B繁殖データから泌乳ステージ,受胎の有無等を求めます。
 CBCSからは,過肥・削痩状態,ルーメンサイズ等を求め,同時に残飼や被毛・糞便の状態,牛体の外部異常(四肢,蹄の腫れ等)を求めます。
 D給与飼料は現在の給与状況からCP(粗蛋白),UIP(バイパス性蛋白),DIP(分解性蛋白),SIP(溶解性蛋白),AbsP(吸収性蛋白),NDF(中性デタージェント繊維),NFC(非繊維性炭水化物),粗濃比等の数値を参考にみます。

 これら健診で得たデータから牛の健康やルーメン内の発酵状態を推測し,日常の管理から気づかない状態で発生する病気を未然に防止する具体的な改善方法を求めます。
 これまでの受診農家で,問題とされた症例では,乾乳期のBCSが高位を維持し,お産前の食欲低下(管理者の気づかないことあり)からカロリーの低下,エサ蛋白(バイパス蛋白)の低下,脂肪動員。お産のストレスから急激な食欲の低下,カロリー不足,脂肪動員,低Ca,BCSの急激な低下から起立不能や胎盤停滞→ケトン症→脂肪肝→乳房炎・第四胃変位を発病し,体力の回復や受胎に遅延を生じ,症状の重軽はあるものの悪循環の状況にありました。
 これらの事態を防止するため,給与飼料の改善(新規飼料の追加,増・減,エサの給与順序・1日での1回配分量等)から分娩サイクル(400日前後の分娩間隔へ)・BCS(分娩後3.5からの減量を2.5以上に維持)の適正化と発病徴候のみられる牛群では薬剤の適正使用を家畜診療所と協議し予防に努めてもらっています。
 牛群健診は健康に牛体を維持し,乳量・乳質,繁殖等を改善し,農家経営の改善の一助に成ることを目的に活動しています。
 一層の飛躍を望む方や牛の健康状態に不安を持つ方等は,牛群管理に『健診』を受診し,問題解決の糸口をみつけ,飼養管理に役立てていただきたく思います。
 また,『ミニ代謝プロファイルテスト』を行い,周産期の事故防止を目的に分娩予定日の10日前頃の乾乳牛に対し,血液検査を行っています。血液検査の項目は『健診』と同様の項目で行い,検査値を検討し,健康牛の範囲を逸脱した問題牛を摘発しています。
 牛群の健康管理で『健診』・『ミニ代謝プロファイルテスト』に関心を持たれる方は,最寄りのNOSAI家畜診療所へ連絡してください。