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〔特集〕

平成14年度畜産施策の推進方針

岡山県農林水産部畜産課

 21世紀に入り1年が経過したが,我が国の農業は,高齢化の進展や担い手の不足,農畜産物の輸入量の増加,BSEの影響による牛肉の消費低迷など厳しい環境が続いている一方,安全で良質な生産物の安定供給や農業・農村の果たす多面的機能への期待は高まっており,畜産施策もこうした環境の変化に対応しながら推進する必要がある。
 このため,国が,農業の持続的発展と食料の安定供給の確保,農業・農村の振興と多面的機能の発揮を目指した農政の基本的指針として平成11年7月に制定した「食料・農業・農村基本計画」に基づき見直しを行った「酪農及び肉用牛生産近代化計画」及び「新世紀おかやま夢づくりプラン(仮称)」に沿って,生産性の向上と低コスト生産及び安全な畜産物の安定供給はもとより,地球に優しい畜産を目指し,関係機関と緊密な連携を図り,「家畜排せつ物の処理と利用促進」,「新技術の開発と普及」,「家畜疾病の防止」,「自給飼料増産」などに取り組み,活力と持続性に富み調和した畜産構造の実現を目指す。
 さらに,消費者の牛肉に対する信頼の回復を図るため,国の家畜個体識別システムと連携した情報システムの整備を進めていく。

1.酪農対策

 国際化の進展と産地間競争の激化及び食生活の変遷により飲用牛乳を中心に消費の伸び悩みが見られ乳価が低迷している。加えて,昨年9月に発生した牛海綿状脳症(BSE)により後継牛の導入が思うようにできないことに起因する生乳生産の鈍化など,酪農を取り巻く情勢が厳しさを増している。このような中で低コストで効果的な経営の展開と環境に配慮した適切な糞尿処理の実施や,良質で安全な生乳の生産供給,更には生乳の広域流通に対応できる集送乳体制の整備など,足腰の強い経営体質の転換が求められている。
 このため,新たに発足した「おかやま酪農協」と一体となって,HACCPの考え方に基づく生産から流通段階における生乳の品質管理体制強化や広域指定団体への支援,雌雄判別受精卵移植技術や後代検定・牛群検定の普及促進と県産乳用牛の増頭等による乳用牛改良の推進,転作田や耕作放棄地の有効活用による良質自給飼料の増産,公共育成牧場の再編による運営体制の強化などに努める。
 また,地域の特性を生かした牛乳・乳製品の製造販売など,農業の6次産業化を推進しながら付加価値の高い生産構造へ誘導するとともに,7中国四国酪農大学校において経営感覚に富む新規就農者の育成を図るとともに,酪農ヘルパー組織・コントラクター組織などの育成により,「ゆとりのある酪農経営」の実現に努める。

2.肉用牛対策

 肉用牛については,昨年我が国で初めて発生したBSEの影響で,消費者の牛肉に対する不安が高まり,牛肉消費が大幅に減少した結果,子牛や肥育牛価格が著しく低下しており,畜産農家は極めて厳しい経営環境にある。
 加えて,食肉の表示を巡る偽装事件が発覚し,消費者の信頼が大きく損なわれていることから,適正な表示を推進することが食肉流通業界に課せられた大きな課題である。
 このような状況の中,BSEの緊急対策として,繁殖農家に対し子牛の販売価格の国との差額を補てんする県独自の制度の創設や肥育農家に対する家族労働報酬の全額補てんするための基金への増額対策等を講じるほか,育種価や後代検定等による優秀な種雄牛作りと改良の促進をはじめ,「和牛生産体制活性化プラン」に基づく規模の拡大や地域内一貫生産体制の確立,乳用牛への和牛受精卵による優良牛の生産拡大など消費者が求める低コストで高品質な牛肉の安定生産を推進する。さらには,食肉販売店での牛の個体や生産者情報が把握できるシステムを構築し,安心,安全な牛肉の流通や表示の適正化を推進する。
 また,「おかやま和牛肉」を全国ブランドとして定着させるための安全性のPR及び首都圏での販売宣伝等の推進や,平成14年9月に岐阜県で開催される第8回全国和牛能力共進会での優秀な成績を収めるための出品牛の選抜指導,さらには部分肉流通の進展に対応した食肉流通体制の整備など一連の施策を総合的に推進する。

3.養豚対策

 養豚については,国際化の進展に伴う輸入量の拡大や高齢化等による飼育戸数及び頭数の減少等厳しい状況のなかで,引き続き価格安定対策を講じながら,経営感覚に優れた企業養豚を育成する。
 このため,優良種豚の導入による肉質の向上と斉一化をはじめ,人工授精の普及定着や省力的な飼育管理等による低コスト生産を推進するとともに,環境との調和を考えた高品質肉豚生産団地を整備する。
 また,「おかやま黒豚」については,総合畜産センターから優良な種豚を意欲ある生産者に供給するほか,おかやま黒豚銘柄推進協議会が中心となって積極的なPRと,指定店による消費拡大に努めるなど,産地の拡大と銘柄化を推進する。

4.養鶏・養ほう対策

 鶏卵は,需要に見合う計画生産を基本として,価格安定対策を講じ卵価の安定に努めるほか,サルモネラ汚染防止等の衛生的な飼養管理を推進し,消費者が求める安全で新鮮な鶏卵の供給と経営の安定に努める。
 鶏肉については,安全で高品質な鶏肉の供給を基本として効率的・衛生的な飼養管理による生産性と品質の向上に努めるほか,おかやま地どり等の県産銘柄鶏肉の消費拡大を促進するとともに,JAS法に基づく適正表示を推進し消費者が安心できる鶏肉の供給に努める。
 養ほうについては,耕種農家との連携によるレンゲの作付け拡大等みつ源の増殖と,円滑な転飼調整に努め,安定的なみつ源の確保とはちみつの生産拡大を推進する。

5.飼料対策

 規模拡大による労働力不足及び飼養農家の高齢化等に伴い濃厚飼料を中心に,多くを海外に依存せざるを得ない状況の中で,飼料自給率を高める方向に生産構造を転換することが重要な課題となっている。
 このため,自給飼料の増産を具体的に推進するために,樹立した「岡山県飼料増産推進計画」に基づき,草地の造成整備と転作田の有効活用等による飼料作物作付け面積の計画的な増加を図るとともに,優良草種・品種の導入による単収向上等を推進する。
 また,耕種農家との連携を強化し,水田等既耕作地の有効利用を図り,稲発酵粗飼料(ホールクロップサイレージ)の普及や稲わら等の未利用資源の活用を推進するほか,コントラクター(飼料生産受託組織)を育成し,経営の低コスト化や労働力の低減及び家畜排泄物の土地還元等を通して経営の安定を図る。

6.家畜衛生対策

 家畜衛生については,国際化の進展や国内での家畜流通の広域化に伴い,口蹄疫や牛海綿状脳症などの海外で流行している悪性伝染病が我が国に侵入し,畜産農家に大きな被害をもたらしていることから,家畜保健衛生所,家畜病性鑑定所を中心に家畜畜産物衛生指導協会等関係機関と一体となって危機管理体制の整備や監視体制の一層の強化を図るとともに発生時の迅速な防疫体制の構築に努めるほか,国内で発生のある監視伝染病や慢性疾病は,サーベイランスや予防接種を通して,発生を未然に防ぐための事前対応型の防疫を推進する。特に県内で多発しているヨーネ病については,乳用牛の全頭検査を実施するなど検査対象の見直しと検査体制の強化を図ることにより,清浄化に努める。
 また,消費者の安全,安心志向に応えるため,サルモネラや大腸菌(O−157)等の生産現場での衛生管理の徹底を推進するとともに,雌雄判別技術を活用した受精卵移植の推進,農業共済連家畜診療所との連携による死亡廃用事故低減により生産性の向上と農家経営の安定に努める。

7.環境対策

 経営規模の拡大や市街化,混住化の進展に伴う環境問題並びに「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」に適切に対処するため,耕種農家との連携による家畜ふん尿の有効利用と土作りを基本に,家畜ふん尿処理施設の計画的な整備,高品質な堆肥製造,さらには食品残さ等有機資源も含めた堆きゅう肥の流通促進など環境と調和のとれた畜産を推進する。

8.技術開発と指導対策

 本県の特徴を生かした高品質畜産物の安定的な生産を図るため、バイオテクノロジー等の先端技術を活用した雌雄判別卵の凍結や胚・体細胞クローン牛の生産技術の確立,家畜改良へのDNA利用,さらには豚凍結精液の実用化,尿汚水の簡易無臭液化など畜産農家の生産性向上や低コスト生産に直結した試験研究に取り組むとともに消費者ニーズの動向に沿った畜産物加工品生産のための技術開発に努める。