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体細胞数を減らそう!(1)

岡山県総合畜産センター 大家畜部 研究員 秋山 俊彦

 最近,農業に携わっている者にとって,一部の流通・加工業者に対して強い怒りさえ感じる偽装表示事件が発生し,社会全体で食べ物に対する不安・不信感が強くなっています
 消費者は,商品が良質であることは当然のことながら,安全・安心できるものを求めています。酪農でいえば,脂肪率,無脂固形分率といった乳質の向上はむろんのこと,体細胞・細菌数といった衛生的な面からも安全で良質な生乳を生産していくという自覚がより一層必要な時代となってきました。
 今回「良質生乳」といった観点から体細胞数について述べます。

★体細胞って何?

 酪農家にとって,体細胞は大変頭の痛い課題です。
 では体細胞って何でしょうか?
 体細胞とは,牛乳に含まれる白血球や脱落細胞のことです。
 健康な牛の乳汁中体細胞の多くは乳腺組織から剥離した上皮細胞で,一部には白血球などの血液から来る細胞も含まれますが,これは生理的なものです。
 しかし,乳房炎の病原菌に侵されると白血球が増加します。白血球は血液に含まれ,体内に細菌やウイルスなどの異物が入ると排除する役割を担います。そのため,牛の体調が悪くなると乳の中の白血球数(体細胞数)も増えることとなります。

★岡山県の現状

 県内の平成13年度バルク乳の月別体細胞数農家割合の推移を表1に示しました。
 県内の体細胞数の現状は,決して良好な成績とはいえません。年間を通じて約半数の農家が体細胞数30万以上となっています。特に7月から12月にかけては,体細胞数30万以上の農家割合が60%にも上がり,4分の1は体細胞数50万以上となっています。

★体細胞数が増えるとなぜ良質な生乳とはいえないのでしょうか?

 現在,生乳の品質で最も注目されているのが風味です。体細胞数が多くなるとこの風味が著しく低下して美味しい生乳とはいえなくなります。また,一方ではチーズなどに加工する場合,製品の歩留まりが低下するといわれています。これは細菌により乳腺細胞での乳糖合成が阻害されるために起こります。

★バルク乳の体細胞数

 バルク乳体細胞数は農家ごとに,どのくらいの牛が乳房炎に感染をしているかが把握できます。体細胞数が多い場合にはその原因となっている個体を特定する事が必要です。
 表2にバルク乳体細胞数と乳房炎発生率を示しました。バルク乳体細胞数が50万を超えると非常に高い割合で乳房炎が発生しているといえます。
 自分の家の月2回の乳質検査結果を参考に較べて下さい。

 以上,体細胞数の現状を示しましたが,体細胞数が増加すると,牛乳中の成分が変化し風味が損なわれるだけでなく
 @生産乳量の減少 A治療費 B乳代低下・ペナルティー Cその他(淘汰,バケット搾乳等余分な作業の実施)等数値に表れる損失だけでなく生産性をも阻害します。
 これからの時期は,暑さにより牛がストレスを受け体細胞数が上昇してきます。暑熱対策をしてストレスを少しでも緩和することが体細胞数の減少につながります。
 乳房炎は酪農家の職業病とあきらめずに,我家の乳牛への愛情を持つとともに生産者として消費者に対して自信を持って薦めることのできる生乳を生産していきましょう。
 次号で,体細胞数を減少するための搾乳方法について述べます。