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〔特集〕

酪農経営における牛尿汚水の実態と性状調査

岡山県総合畜産センター 環境家畜部環境衛生科

 近年、家畜排泄物の管理や利用の促進を目的とした法律の施行により、ふん尿処理については緊急を要する課題となっています。また、平成13年5月水質汚濁防止法の一部改正により、アンモニア及び硝酸化合物等が有害物質に指定されるなど、畜産経営に伴う尿処理が注目されつつあります。
 牛尿汚水については、速効性の肥料として草地や飼料畑への散布が主に行われてきましたが、近年の規模拡大に伴い、経営内での処理・利用は限界に達している例も認められ、今後環境問題に発展するケースも少なくないと考えられます。しかしながら、尿汚水に関する研究は、「処理」を主体としたものが多く、積極的な有効活用のためには「利用法」の検討が必要であり、さらに利用を前提とした場合、尿汚水の「基礎的なデータ」は少ないのが現状です。
 そこで、家畜尿汚水の合理的な利用法として液肥化を念頭に、酪農経営における尿汚水の実態を岡山、井笠、高梁、真庭、津山の各家畜保健衛生所の協力のもと調査を行いました。

1.ふん尿排出量と汚濁物質

 本論に入る前に、最も基本的なふん尿排泄量と尿中汚濁物質について若干説明します。

(1) 家畜のふん尿排泄量

 牛は、毎日どのくらいの尿を排泄しているのでしょうか?。堆肥化施設や貯留槽の規模算定に用いる排泄量を示しました。
 表1のように、牛は生産活動に伴い毎日多量の尿を排出します。
 これらの利用方法としては肥料としての土地還元が主体となりますが、圃場を持たない農家では、浄化処理を行う必要があります。ちなみに、人は1日当たりし尿として約1.5s排泄します。家畜の排泄量が如何に多いかわかると思います。

(2) 尿汚水中の汚濁物質

 ふん尿は、土地還元が原則ですが、河川への汚濁物質の流亡や地下水汚染等に注意しなければなりません。また、浄化処理を行った場合についても汚濁物質量を知ることは重要です。では、ふん尿に由来する汚濁物質にはどのようなものがあるのでしょうか?水質汚濁防止法で規制されている項目を中心に表2にまとめてみました。
 これらのうち、pH以外は数値が高いほど汚れていると考えられます。この中でBODについては浄化槽を設計するうえでも、非常に重要となります。

2 酪農経営における尿汚水実態調査

 平成13年6月22日から12月7日の期間に、県下106戸の農家から尿槽内の尿汚水を採取・分析するとともに経営の概要を聞き取り調査を実施しました。

(1) 調査方法

 飼養頭数、牛舎の形式等経営の概要や尿槽の容積、貯留期間、雨水の流入等尿の貯留状況について聞き取り調査を行いました。また、サンプリングを行った尿汚水についてpH、EC、COD、BOD、SS、全窒素、アンモニア態窒素、リン酸、カリ等の分析を行いました。

図1 聞き取り調査

(2) 調査結果の概要

 (ア) ふん尿の搬出形態等

 尿の利用は、土地還元を基本として行われており、対尻式を主体としたバンクリーナーによる搬出が約75%でした。一方、尿をオガ等の水分調整材に吸着させて堆肥化を行っている経営は予想以上に多く、オガ等の経費がかかるものの尿処理をスムーズに行う苦肉の策のように思えました。

 (イ) 貯留槽の容積等

 経産牛1頭当たりの平均尿槽容積は、1.4m3であり、成牛1頭当たり20Lの尿を排泄すると考えると約1〜2ヶ月の貯留が可能と考えられます。また、調査農家中28%の農家で雨水等の流入が考えられました。

 (ウ) 牛尿汚水の性状

 調査農家106戸のうち、自然流下式および明らかに雨水混入の認められたサンプルを除外した76検体の尿汚水性状平均値を表3に示しました。BOD濃度は12,000ppmで、かなり高濃度であることがわかります。(生活雑排水と比較した場合、最も高い台所からのBOD濃度は500ppm程度といわれています。)また、アンモニア態窒素は4,000ppm程度でした。これらのデータは大変貴重であり、肥料としての利用にはもちろんのこと、浄化槽設置に際しても参考となります。

3 牛尿汚水の性状に関する検討(室内貯留試験)

(1) 試験方法

 「畜舎に貯留されている尿汚水にはどの程度のふんが混入しているのか?」、また、「貯留期間はどの程度なのか?」を調査するため、貯留期間による尿汚水の性状変化を調査しました。
 方法は、新鮮尿と新鮮ふんの混合比率を変え、1Lのサンプル容器に充填して暗室に静置、24週間定期的に分析を行いました。

図4 貯留試験

(2) 試験結果の概要

 (ア) サンプルの性状の変化

 貯留開始後、2週間でアンモニアの発生量の増加、pH値の上昇が認められました。その後、全ての区でアンモニア濃度は徐々に低下する傾向を示しました。これらのことから、ふんと尿が混合すると急速にアンモニアが増加することがわかり、その発生防止にはふんと尿の分離が重要な要因となります。また、BOD濃度については、保存しているだけで嫌気的な分解により低下することがわかりました。

 (イ) 大腸菌群の消長

 尿中の大腸菌群は2週間で検出限界値以下になり、これは、pH8.5以上での尿中における重炭酸イオン生成による消失と考えられました。しかし、フィールドのサンプルでは常に新しい尿が流入しているため、大腸菌群数は少ないもののほぼ一定数確認されています。

 (ウ) 農家貯留尿との比較

 室内貯留試験から、農家の一般的な牛尿汚水は、尿に5〜10%ふんが混入しており、汚水成分濃度は、表4のとおり約1ヶ月静置後の貯留尿に酷似していました。

4 まとめ

 今回、乳牛を主体とした尿の液肥化をすすめる基礎として、フィールドにおける尿の貯留状況及び牛尿汚水の性状を調査しましたが、現状では、ふんの処理・利用に比べ改善は遅れています。このため、立地条件によっては、ふんとの堆肥化で対応している酪農経営も多くあります。このような地域では、河川の水質汚濁や臭気だけでなく、地下水の硝酸態窒素汚染などが話題になりつつあるなかで、家畜の尿・汚水の合理的な利用法が重要な課題であるとあらためて感じられました。 これらの対策として当センターでは、貯留牛尿の汎用的な液肥化利用を念頭に検討を行っていますが、本試験では「ふんの混入率を変えた貯留試験を行った結果、フィールドにおける貯留牛尿は、5〜10%のふんが混入しており、貯留期間は1ヶ月程度」と推察されました。
 今後は、液肥化をキーワードとして、尿にMg、Ca等付加価値のある肥料成分の添加や臭気低減対策などを講じて、尿本来の肥料成分が有効かつ積極的に利用できる技術開発を行うとともに、飼料イネ生産水田等への有効利用法の検討をすすめていきます。