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〔特集〕

良質堆肥づくりのコツ

岡山家畜保健衛生所 技師 藤原 裕士

1.はじめに

 これから夏になり暑くなってくると畜産農家には頭の痛い問題が増えてきますが、その中でも糞尿処理に関しては最も悩みの種になるところです。悪臭の苦情がではじめたり、堆肥が貯まってしまうのもこの時期です。そこで今回はどうすればよい堆肥が作れるのか、ということにテーマを絞って畜産環境の改善を考えてみたいと思います。

2.堆肥の基礎知識

 家畜ふん堆肥には植物が利用する無機態の3要素(窒素、リン酸、カリ)があまり含まれておらず(1〜2%程度)、この点においては化学肥料よりはるかに劣ります。また無機態の含有率も一定ではないため、計画的な施肥が難しい面もあります。しかし家畜ふん堆肥には化学肥料にはないとても優れた点があります。 それは「土づくり」をする能力があるということです。家畜ふん堆肥には発酵が終わった後も多くの有機物が含まれており、土壌中の微生物がこの有機物を使って生きていきます。その過程で微生物が土を自ら適した環境に作りかえ、結果的に植物にとっても生育しやすい土となるのです。つまり化学肥料を純粋な肥料とするならば、家畜ふん堆肥は土壌改良材と呼ぶことができます。

3.完熟堆肥ってどんな堆肥?

 堆肥に興味のある方なら一度は「完熟堆肥」という言葉を耳にされたことがあると思います。それでは完熟堆肥とはいったいどんな堆肥を指しているのでしょうか。おそらくサラサラで砂のようになった物を想像される方も多いのではないでしょうか。実際には完熟堆肥の定義は専門家の間でも意見が分かれていますが、土壌改良材としての施肥であることを踏まえると、発酵して有害な微生物や雑草の種子が死滅する温度に達していれば、サラサラになっていなくとも完熟堆肥といっても差し支えないと考えられます。もちろん結果的にサラサラになった堆肥は見た目もよく施肥しやすいという利点はあります。

4.良質堆肥づくりのコツ

 それではどうしたら良い堆肥(完熟堆肥?)ができるのでしょうか?様々なポイントがありますが、最も重要な点は「空気」なのです。糞の中には多くの種類の微生物が生活していますが、堆肥を作る上で重要な役割をしているのが空気の中の酸素を好む好気性微生物です。この微生物が活発に活動することで糞の中の有機物が分解され、その運動が熱に変わっていわゆる発酵熱となります。従って最初に副資材を混合するのは糞の水分を吸収させるというよりも、空気の通り道を作ってやるといった意味合いが強いのです。
 それでは皆さんは最初に副資材をどのくらい混合しているでしょうか?このことに関しては畜産環境整備機構の本多勝男氏の実験で得られた明確な数値があります。それは「比重0.6以下」にする、というものです。これはどういうことかというと糞と副資材を混合したものが10リットルあたり6キログラム以下になるように調整するということです(写真はオガクズを使用)。この程度副資材を投入すれば発酵が起こりやすくなります。

生糞10リットル(約10kg)
副資材混合糞10リットル(約6kg)

 しかしこの「比重0.6以下」には副資材を大量に必要とするという大きな問題があります。おそらく今まで皆さんが毎日副資材を投入していた量よりもはるかに多いと思います。副資材にもよりますがオガクズの場合だと糞と半分半分くらいです。現実問題、副資材を比重0.6以下になるように毎日投入するというのは調達の手間や、資金面から無理があります。比重0.6というのは到達し得ない目標のように思えますが、少しでもこの数値に近づけることがよい堆肥を作るコツでもあります。
 また切り返しも重要です。先程重要なのは空気であると述べましたが、切り返しは堆肥を空気により多く触れさせてやる作業です。切り返しをすると悪臭がでるという理由から作業回数を少なくしている人も見受けられますが、これは堆肥づくりからいっても悪臭防止という観点からしても間違いです。むしろ切り返しをしなければ堆肥中に空気が入らず嫌気的に発酵していわゆる「腐った」状態になるため、余計にいやなにおいが発生する原因となります。

5.おわりに

 実際に思ったとおりの堆肥を作るのは難しいことですが、ほんの少しでも手を加えることにより、今よりさらに改善することはことは間違いないと思います。それはまず畜舎を清潔に保つといったところから始まっていると私は考えています。