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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

岡山西南家畜診療所 大屋 卓志

 私が,この岡山西南家畜診療所に配置になって早くも,もう4年目を迎える。
 時がたつのはつくづく早いものだと感じる。自分自身も,もういくつか数えると40歳となるところを迎えていた。そこで,ここらで家でも建てようかと一大決心をし,いろいろと試行錯誤した末,総社を選択し家を建てた次第であるが,やはり家を建てるとなると様々な選択に悩まされる。
 木造軸組,ツーバイフォー,プレハブという工法の選択から,各住宅メーカーの利点,欠点,特典,サービスなどを考慮し結局は木造軸組にて家を建てた次第である。
 私が,家を建てる上で一番考えなくてはならないと感じたのは,住み心地すなわち快適度である。この目に見えなく,数値でも表せない快適度は何によって示されるかというと具体的には温度差の小さい家のことである。すなわち,夏涼しく,冬暖かく,家の各部屋の温度差が小さく家の中で快適に過ごせるというものである。そして,家の温度差を小さくすることによって,壁内結露の発生をなくし,これによって家を腐らせる腐朽菌,シロアリ,カビの発生を予防し,高齢になっても,風呂の出入りなどで危険な温度差によりショック死を予防する。また温度差を小さくするためには家を高気密にするが,これにより汚染された空気が家中に漂うため換気システムを設置し常時,新鮮な空気を供給する。これに新鮮な水,クッションの効いたベットやソファーがあれば住み心地のよい家と言えるのではないだろうか。各住宅メーカーともこれらの事を実現するために,様々な工法,工夫,生産コストの低減をアピールしている。
 ところで,生産獣医療においても最近,快適度ということが重要視されてきている。これは,牛の立場に立って,牛に快適さを与えることによりストレスを低減し,病気を予防し生産性を上げるという方法である。
 この方法を簡単に述べると,牛体,牛床を清潔にすることを大前提に牛が快適に過ごせる牛床の幅,長さの設定,牛床と餌槽の高さは20pに設定する。新鮮な水,餌を供給するために餌槽にFRPを塗布,餌槽の上方に水槽を設置し餌で汚染された水を還流し常時新鮮な水を供給するシステム,牛を繋留するロープは90p,牛舎内の換気は二側面を密封し,二側面を開口し扇風機により一方向に風を流す,削蹄は年3回実施など等。詳しい事は他の資料を参考にしていただくとして,既に北海道ではこのような取り組みにより様々な疾病予防,飼料内容を変換しなくとも,2割,3割の乳量アップに成功し生産性の増大に成功している。
 また,衛生面では予防できなかった疾病が快適度を指標に改善を取り組むと絶大なる効果が認められた,という研究論文が学術研究発表会で高い評価を受けている。
 また,帝国臓器製薬アニマルヘルス部ではストレスと繁殖障害について研究されているが,ストレスのホルモンが高濃度で分泌されている状態でのホルモン療法は無効であるという報告もある。ここでストレスと疾病について述べてみると,ストレスが加わることにより,脳下垂体より副腎皮質刺激ホルモンが大量に分泌され,副腎より副腎皮質ホルモンが分泌される。この状態が長引くとの脳下垂体より発情を回帰するための性腺刺激ホルモン放出ホルモンが分泌されなくなり繁殖障害となる。また,副腎皮質ホルモンの分泌増大に伴い,アドレナリンが分泌増大し,脳下垂体より分泌される泌乳ホルモンであるオキシトシンの分泌を抑制する。すなわち泌乳量の低下となる。
 また,副腎皮質ホルモンの作用として蛋白質合成阻害があり,肢の脆弱化を招き運動器病を発生する要因となり,白血球の遊走を抑制し免疫力を抑制するため,乳房炎になりやすくなる。また,妊娠牛を流産させる作用もあり夏場の流産の多発はこのような要因によるものとも考えられる。
 以上,生理学,薬理学的にストレスと疾病について述べ,小難しい説明になったが,ストレスを解除する方法は,先に述べたように非常に基本的な事を追求したものであると言える。
 我々獣医師,畜産農家ともよく考え取り組んでいく必要があると感じる。