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〔特集〕

養豚振興対策と地域における取り組み事例について

岡山県農林水産部畜産課

1.はじめに

 近年の養豚界は,昨年のBSE発生を契機に牛肉から豚肉,鶏肉への消費のシフトによって豚肉需要が高まり,長期的な肉豚価格の低迷から一転して好調な価格推移が続いています。
 一方で,今年4月からのSG注1)解除と豚肉需要の増加等を要因に,豚肉及び加工品の輸入量が本年度第1四半期において発動基準数量を超えたため,昨年に引き続き8月通関分から来年3月末までのSGが発動されました。

注1:SG(セーフガード)

 農林水産物の輸入量が一定水準(トリガーレベル)を越えた場合,国内産業
や経済への影響を防ぐため特別に認められている基準輸入価格引き上げによる緊急措置。
 豚肉のトリガーレベルは各四半期ごとに前3ヵ年同期比の19%増。


図1 基準輸入価格の引き上げ

表1 平成14年度養豚関係事業

2.本県の養豚振興対策

 国際化の進展に伴う輸入量の拡大,高齢化等による戸数減少等,厳しい状況の中で,生産性の高い養豚経営体を育成し,さらに安全で品質の高い豚肉の安定的な生産に努めるため,以下の支援対策に取り組んでいます。
 1)肉豚の価格安定対策
 生産者等の積立金と県の助成による基金によって,豚価が地域保証価格を下回った場合に保証価格との差額の90%を補てんし,肉豚生産者の経営を安定させる仕組みです。
 昨年度から肉豚価格は好調に推移しておりますが,収益性に比して価格変動の大きい肉豚生産を支える重要な施策です。
 本年度の地域保証価格は昨年度と同じ一般豚411円/s,黒豚565円/s(枝肉ベース)となっています。
 2)養豚振興基金造成と養豚団体活動助成
 簡易施設の整備や消費促進など地域に応じた養豚振興活動を展開するための基金造成に対して助成を行います。
 また,県唯一の生産者団体である岡山県養豚振興協会への活動助成を行います。
 3)県有種豚の導入
 総合畜産センターで生産した種豚及び人工授精用精液を県内養豚農家に供給し,産肉性・繁殖性の向上を図ります。
 現在,バークシャー種,デュロック種を中心に県外先進地からの血液導入等,能力向上に努めながら農家への種豚供給を行います。
 4)おかやま黒豚の銘柄推進
 黒豚生産に意欲の生産者の種豚導入や簡易施設整備に対する助成を行うと共に,生産農場や販売店等の認定団体である「おかやま黒豚銘柄推進協議会」をはじめ関係団体と共に銘柄化と生産拡大を図ります。

3.荒戸山SPFファームの取り組み

写真1 農場全景

 昨年9月,阿哲郡哲多町において県下で2件目となるSPF豚注2)農場,牛r戸山SPFファームが完成し,この春から肉豚の出荷が始まりました。
 この農場は,以前はブロイラー鶏舎として使用されていましたが経営撤退を機に,今後も使用可能な施設の有効利用が検討されました。その結果,同有限会社が譲り受け,平成12年度から1年間を要して農畜産業振興事業団の指定助成事業により,SPF豚農場として畜舎の模様替えと糞尿処理施設の整備等を行ったものです。

注2:SPF豚
 生産性を阻害する特定疾病を取り除いた環境で飼われた健康な豚。特定疾病とは,わが国では,1)マイコプラズマ性肺炎,2)豚萎縮性鼻炎,3)豚赤痢,4)トキソプラズマ病,5)オーエスキー病の5つ。

 経営規模は母豚常時480頭,肉豚年間出荷頭数は10,000頭の一貫経営であり,日本SPF豚協会の定める基準によって防疫と飼養管理を行っています。
 豚舎環境は,畜舎全面に断熱材を使用したセミウィンドレス仕様,夏場はデザートクーラー,クーリングパッド(ラジエター様の水冷システム),冬場はヒーター等を使用し管理されています。
 経営開始から7月末までの累計で離乳頭数5,652頭(9.81頭/腹)で,職員一丸となって生産性向上に努めており,一腹当り生産頭数は毎月向上しています。

写真2 管理棟シャワー室

写真3 離乳舎

写真4 フェンス下部の害獣防止対策

写真5 デザートクーラー

写真6 クーリングパッド

 堆肥処理施設は,豚舎と直結した省力型設計で深型ロータリー攪拌機を使用。尿処理施設は標準活性汚泥連続式処理方法を採用し,最終処理過程にRO膜(逆浸透膜)を設置,処理水の一部を豚舎内でリサイクル出来る施設になっています。

写真7 尿処理施設全景

 SPF豚肉は近年,全国的に生産が増加傾向にあり,皆さんも豚肉販売コーナー等で目にすることもあると思います。衛生的・健康的なイメージのみが先行しているSPF豚肉ですが,衛生的な管理により健全な腸内細菌が構成される結果,産生される脂肪酸組成の影響によって肉質は@赤身に適度な脂肪が含まれ,きめ細かくジューシーA保水性が高くうま味が逃げないB豚特有の臭みが少ない等,高品質な豚肉の生産手段として期待されます。
 秋以降,本農場がフル稼働を始めれば岡山県におけるSPF肉豚の年間生産頭数は約16,000頭となるなど,本県養豚の生産基盤の中核としても期待されています。

写真8 題なし

4.おわりに

 今後,養豚が生き残っていくためには,環境対策など施設整備,衛生対策の強化,国際競争力を高めるための企業的経営,低コスト生産,付加価値の高い肉豚生産と販路開拓等様々な課題が山積しております。引き続き皆様のご理解とご支援,ご協力をお願いします。