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〔特集〕

養豚における汚水処理技術

岡山県総合畜産センター 環境家畜部環境衛生科 脇本 進行

1 はじめに

 養豚経営体の畜舎排水処理状況を全国的にみると約6割の経営体で浄化処理施設を採用しています。これは,ほ場を持つ酪農経営や,尿をオガ等に吸着させ堆肥化を行うことの多い肉用牛経営に比較して,養豚経営体では尿を還元するほ場を持たない場合が多く,河川放流が可能な浄化施設の設置が必要となるためと考えられます。
 ここでは,養豚経営に欠くことのできない汚水処理施設の基本と,一般的な活性汚泥法の維持管理について簡単に解説します。

2 尿汚水処理の基本

 (1) 汚水処理の仕組み

 汚水処理の例を図1に示しました。処理法には大きく分けてスクリーンや沈殿槽を用いた物理的処理と活性汚泥などの微生物を利用した生物的処理,及び消毒剤や凝集剤を用いた化学的処理の3つに分けることができます
 多くの場合は,活性汚泥法などの生物的処理が汚水処理施設の中心となります。物理的処理や化学的処理は前処理や後処理として利用される場合が多くみられます。

図1 汚水処理のフロー(例)
 (2) 活性汚泥法の種類及び特徴

 ここでは,畜舎排水処理施設の中でも多く用いられている活性汚泥法をとりあげて,簡単に説明します。
 活性汚泥法には,大きく分けると連続式と回分式にわかれます(図2)。連続式は曝気槽と沈殿槽を中心とする施設で,沈殿槽から活性汚泥を曝気槽に返送し,沈殿槽の上澄み液を処理水として施設外に排出します。また,回分式では一つの槽でこれらすべての行程を行います。

連続式活性汚泥法

回分式活性汚泥法

図2 一般的な活性汚泥法のフロー(畜産環境アドバイザー養成研修会資料より)

 総合畜産センターでは,平成13年度から写真1に示すような連続式活性汚泥処理施設(乳牛40頭規模)の実証運転を開始し,データの集積と低コスト処理を研究しています。

写真1 連続式活性汚泥法の実証施設(岡山県総合畜産センター)

3 汚水処理施設設置のポイント

 一般に,汚水処理施設を計画する場合,家畜の種類と頭数,畜舎の構造(尿分離,雑排水の混入など)がポイントになります。これらをもとに,1日あたりの汚水量,BOD量(生物化学的酸素要求量)とSS量(浮遊物質)を計算し,処理施設規模を算出していきます。活性汚泥法曝気槽の容積については,1日1m3当たり何sのBOD量を処理するか(BOD容積負荷量〔s/m3・日〕)で決定します。もし,ふんの分離が十分に行われておらず汚水中にBODが多く含まれる場合は,浄化槽の容積は大きいものになります。一方,ふん尿分離をしっかり行えば比較的小さい浄化槽で済むことになります。即ち,ふんの分離度合いによって施設の設置規模が決まります。
 なお,養豚経営で一般的に用いられる汚水量,BOD量,SS量は表1のとおりです。

4 活性汚泥施設維持管理のポイント

 活性汚泥施設を維持していく上で重要なポイントをまとめると次のようになります。

(ポイント1)処理能力を超えて汚水を投入しない。

 処理能力以上の汚水が汚水処理施設に投入されると,曝気槽がパンク状態になるため,発泡したり,異臭を放つようになります。また,これに伴い処理水質も悪化します。
 一般的に施設の処理能力は,BOD容積負荷量(s/m3・日)で表されており,標準的な活性汚泥法では0.4s/m3・日前後の負荷量で設計される場合が多いので,曝気槽容積に合った負荷量の汚水を投入して運転するのが望ましい。

(ポイント2)活性汚泥の濃度チェック

 通常,活性汚泥処理施設は,余剰汚泥の引き抜きなどにより,活性汚泥量(MLSS)を3000ppm〜6000ppmに保って運転を行います。
 活性汚泥が少なすぎると処理能力が低下します。一方,多すぎると,処理水と活性汚泥が分離されず,排水中から活性汚泥が流出し,かえって汚染することがあります。

(ポイント3)曝気量の調整

 曝気槽内の溶存酸素量(DO)は,2〜3r/lもあれば十分と考えられます。
 DOメーターは価格的には数万円のものから市販されており,日々の管理には必需品です。

(ポイント4)日々の汚泥管理

 日々の汚泥管理ではMLSS(活性汚泥量)を測定するのは難しいのでSV(活性汚泥沈殿率 豆知識1参照)を確認(写真2)して,汚泥の増減を調べます。増えすぎた場合は余剰汚泥を引き抜き,一定に保つことが重要です。また,汚泥の色や泡立ちの様子(豆知識2参照)なども確認することが重要です。

0分→30分経過
写真2 SV測定風景

〔豆知識1〕

 SV(活性汚泥沈殿率)

  活性汚泥沈殿率は,容量1l又は100mlのメスシリンダーに曝気槽混合液を入れ30分間自然沈降させます。この時のメスシリンダーの目盛りを読みとり,沈殿物と上澄み液の境目が500mlラインにあればSVが50%となります。また,これはMLSSでおよそ5000ppmとなります。(写真2参照)

 

〔豆知識2〕

(参考)活性汚泥の状態

 ア 褐色,茶褐色は良好な状態で赤褐色が最良の状態です。ふん尿色(黒色)に近づくほど過負荷もしくは酸素不足の状態です。

 イ 曝気時の泡は良好な状態では速やかに消えます。発生した泡が消えないのは,過負荷,濃厚汚水の投入,酸素不足などにより生物相が変化したことが考えられます。

 ウ 良好な状態の活性汚泥は,ほとんど臭いがなく,わずかに土臭がする程度です。ふん尿臭がするほど過負荷,もしくは酸素不足であり,腐敗臭は汚水の腐敗,酸素不足,曝気槽の対流不足などが考えられます。

5 終わりに

 家畜排泄物法などの法規制の強化により,畜産農家から排出される畜舎排水の処理の整備が急務とされる現在,今一度現在ある施設の処理能力と飼養規模を照らし合わせて飼養規模にあった処理能力にする必要があります。また,活性汚泥施設の管理方法についても適正な管理が行えているかどうか確認していく必要があります。今回述べたような点に注意して処理施設の整備や施設の運転管理を行って頂きたいと思います。