ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2002年11・12月号 > 共済連便り 家畜診療日誌 鳥獣害(鳥獣による被害)について

〔共済連便り〕

家畜診療日誌
鳥獣害(鳥獣による被害)について

真庭家畜診療所 酒井 敬二 

 今では山間部の田畑は周囲をトタン板で被っている風景は当り前となっており,初めて見た時は異様な景観だなと思いました。美しい山々等の景観を損なうようでもあるが,獣(特に猪)から作物を守るには仕方がない状況にあります。今回,作物だけでなく家畜にも被害が出ている状態を書きます。私も県内各地で診療して来ましたが,牛舎内で餌を食べに入って来る獣(猪,狸)等を見て来ました。一見,牛と共にこれら猪狸が餌を食べている状況は微笑ましくも思えますが,慣れてくると人間が近くにいても,危害を加えないと解ると,平気で夜行性といわれる狸でさえ餌を与える時間帯になると昼間でも出没します。そしてこれら獣たちが家畜,特に病気で衰弱した牛,また出生直後の子牛に被害を与える事があります。私が今まで経験したものでは乳牛のお産で畜主が留守の時,出産後,子宮が出て衰弱したところに烏が嘴で子宮を引き裂いて食べ出血死亡,和牛子牛が出生直後に衰弱していれば体の一部を齧り,また子牛の下痢治療中,衰弱した時に同様に大腿部内側を齧られたりして骨が露出していたりと様々でした。これら家畜が被害にあうと例え命に別状はなくとも機能障害が生じると,市場での価格は著しく下落します。そして和牛子牛の場合母牛が一緒に居ても何故守ってやれなかったのかと思うのに,たぶん常日頃から狸を見ていたり,一緒に餌を食べていれば警戒心も薄れるのか,母牛が餌を食べている隙間を狙って襲うのかと推測します。これらの被害を防ぐにはどの様にしたらよいかと思うに私なりに対策として牛舎に獣を侵入させない事ですが,透間を防ぐ,構造上無理であれば犬を繋ぐか,罠を仕掛けて捕獲,また,飼料置場に烏が入ってこない様光り物か網を使用する等,それから胎盤は放置せずに深く埋めるとか獣が食べられない様に処置,お産にはよく注意し産後も母子共にしばらく観察し,子牛が母乳を吸うまでは注意し見守ってやる。特に狸をよく見かける牛舎では,夜間のお産は注意が必要です。
 鳥獣の被害は家畜にはそれ程被害件数は報告されていない様ですが,山間部の牛舎においては年に数件は発生しています。これらの野生動物が家畜の配合飼料を食べると味を占め常に牛舎周囲に出没し,また栄養状態が良くなると産子数も増加し,被害も増加するのではないかと懸念しております。ですから野生動物(狸,猪)に餌を与えたりしない。牛舎内の飼料袋も破って食べられない様にする。家庭の残飯も同様に処置管理が必要と思います。
 近頃,民家周辺にも獣(特に狸)が出て来るのが多くなって来ている様に思います。これらも環境の悪化(温暖化)によるものか,また,山林の荒廃(管理不足)により山が肥えすぎて自然の食物も減少しているのかも知れません。これからも鳥獣の被害は作物だけではなく家畜にも波及するのではと思います。人間の少子化とは逆に野生動物(猪,狸)等は,年々増加している様に思います。大切な家畜です。病気もですが鳥獣の被害からも守る様にして下さい。