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1年1産1採卵技術について

岡山県総合畜産センター 和牛改良部生産技術科 田坂 亮代

1 はじめに

 酪農家と和牛繁殖農家が連携すれば,優良和牛の受精卵を乳牛に移植することができ,より効率的に和牛を増頭することができます(図1)。
 しかし,採卵を行うことにより空胎期間が延長すると,飼養頭数の少ない和牛の小規模の繁殖農家では,生産性が低下し経営状況に悪影響を与えることが危惧されます。
 そこで分娩後,人工授精するまでの生理的空胎期間に採卵を1回実施し,その後人工授精を行い1年1産することをめざして,分娩後の採卵及び人工授精のプログラムの作成を試みましたのでその概要を紹介します。


図1 酪農家と和牛農家の連携

2 1年1産1採卵プログラム

 @ 分娩後30日目にCIDR装着
 A 分娩後40日目から過剰排卵処理開始
 B 分娩後52日目に採卵
 C 分娩後62日目からオブシンク法により発情誘起
 D 妊娠鑑定
 オブシンク法とは,発情周期に係わらず処理を開始できる発情誘起の方法です。基本的にはいつからでも処理を開始できます(図2)。

3 採卵及び受胎成績

 当センター飼養の黒毛和種約30頭を用いて採卵及び人工授精を行いました。採卵では,正常卵が1頭当たり平均で約4個採取でき,その後,1〜3回の人工授精により受胎させることができました。在胎日数を285日と考えたとき1回目の人工授精で受胎もしくは2回目の人工授精が早い時期であれば,1年1産が可能と考えられました。残念ながら分娩後150日を越えても受胎しない個体もありました。

4 利点と問題点

 利 点:@ 1年1産が可能になる
       (空胎期間の短縮)
     A 受精卵が得られる
     B 発情発見が必要ない
       (定時人工授精が可能)
 問題点:@ 採卵後受胎までに時間がかかる個体もいる
     A 正常卵がとれないことがある


図2 1年1産1採卵プログラム

5 おわりに

 分娩間隔は和牛繁殖農家にとって経営に直接影響を与える要素です。近年牛の受胎率の低下が問題となっていますが,規模拡大による発情発見率の低下や,発情徴候の微弱化がその一因といわれています。そのため分娩後自然発情を待っていては,いつの間にか数ヶ月が経過してしまった,ということになりかねません。当センターでの今回の試みは,自然発情の有無にかかわりなく分娩後3ヶ月以内に採卵及び人工授精を行うので,分娩間隔が短縮し,たとえ1回で受胎することがなかったとしても,その後の発情をある程度予測でき,発情発見率は向上すると考えられます。さらに,得られた受精卵を移植することができれば,牛一頭から生涯生産される子牛の頭数は飛躍的に増加します。そこで,酪農家と繁殖農家が連携し,農家間の枠組みを越えた流通システムが作られれば,和牛の増頭と受精卵移植技術のより一層の普及が期待できると考えられます。