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アイノウイルスによる牛の異常産について

井笠家畜保健衛生所 加藤 信介

 平成10年〜11年にかけて流早死産の多発,新生子牛の虚弱・起立不能に始まり体型異常(脊柱彎曲・関節彎曲)や内水頭症(大脳欠損)子牛の発生がみられ,畜産農家が甚大な被害を被ったのは記憶に新しいことと思います。
 これら異常産はアカバネおよびアイノウイルスにより引き起こされたことが明らかになり,追跡調査の結果,岡山県ではアカバネ病ワクチンあるいは異常産3種混ワクチン(アカバネ・チュウザン・アイノウイルス混合不活化ワクチン)の接種率が極めて低く,このことが大きな被害の要因になりました。

 今年度,再びアイノウイルスの大規模な流行が認められ,県下で8月からアイノウイルスによる異常産が発生し始め,今後,体型異常や内水頭症の多発が懸念されます。
 アイノウイルスは,アカバネウイルスと同様にブニヤウイルス・シンブ群ウイルスに属し,蚊やヌカカにより媒介されるウイルス(これら吸血昆虫により媒介されるウイルスをアルボウイルスと総称します)です。このため,これら吸血昆虫の活動する季節(初夏から晩秋)がウイルスの流行時期となりますが,感染時の胎子胎齢により異常産の発生形態は左右され,異常産の発生はウイルス流行開始約1ヶ月後から始まり翌年の5月上旬ごろまで認められます。

<本年度の流行状況>

 県下の家畜保健衛生所では,毎年6月〜11月まで1カ月に1回初越夏牛(今夏を初めて過ごす子牛)を対象に,アカバネ,アイノ,チュウザン,イバラキ,牛流行熱,ブル−タングウイルス等のアルボウイルスに対する抗体検査を実施し,これらウイルスの流行状況を調査しています。前述ウイルスの内,牛流行熱以外は異常産関与ウイルスです。
 本年度,井笠家保は4戸11頭を対象に調査をしており,8月下旬にアイノウイルスに対して3戸6頭,9月下旬にさらに2頭が抗体陽転し計3戸8頭,戸数で75%,頭数で73%が陽転しており,大規模なアイノウイルスの流行が確認されました。
 県下全体でも8月〜10月にかけて調査対象戸数の90%(18/20戸),対象頭数の80%(47/59頭)が陽転しました。
 こうした状況下で,異常産ワクチン接種率は12年度以降低迷し,「昨年度からワクチン接種をやめた」という農家も多く,アイノウイルスによる異常産の発生が懸念されます。

<病性鑑定状況>

 本年度,アイノウイルス流行による異常産(アイノウイルス感染症)と診断された管内の症例を紹介します。

症例1.

  経産牛40頭,育成牛20頭飼養農場で9月17日,胎齢9カ月の死産発生。
  胎子の解剖所見に著変は認められず,病理組織検査においても死後変化の他著変は認められなかった。
  ウイルス抗体検査の結果,母牛はアイノウイルスに対し抗体を保有し,またPCRによる遺伝子検査の結果,死産胎子の大脳と脊髄から本遺伝子が検出され,アイノウイルス感染症と診断。なお,母牛に異常産3種混ワクチンは未接種であった。

症例2.

  経産牛12頭,育成牛2頭飼養農場で,10月6日左前足欠損の体型異常子牛が分娩された。
  剖検により左肩甲骨が右に比べ1/5程度と未発達で,肩甲骨から先が欠損。また,大脳側脳室拡張がみられた。
  病理組織検査の結果,小脳を中心に非化膿性脳炎がみられ,側脳室拡張部周辺に微少出血や神経細胞の変性が認められ,ウイルス感染が示唆された。 
  ウイルス抗体検査の結果,母牛にアイノウイルス抗体が検出され,子牛の大脳・小脳から本ウイルスの遺伝子が検出されたため,アイノウイルス感染症と診断。
  なお,肩甲骨から先の欠損と本ウイルスとの関係は不明。また,当農場では平成13年度以降,異常産ワクチンは未接種であった。

<まとめ>

 以上のように,管内ではアイノウイルス感染症と診断された症例が発生しています。
 今後,体型異常や内水頭症の発生,またこれらの異常産に伴う難産等が懸念されるので注意が必要です。
 本病を予防するには,吸血昆虫の活動前にワクチン接種をする以外方法はありません。岡山県では,近年アカバネ・アイノウイルス等のアルボウイルスの流行が頻繁に認められており,異常産3種混ワクチン(アカバネ・アイノ・チュウザンウイルス混合不活化ワクチン)を必ず接種するよう心がけてください。

 最後に,当管内には,毎年初越夏の未経産牛はもとより経産牛全頭に異常産ワクチンを接種している農場があります。飼養頭数は経産牛90頭,育成牛30頭で,先日当農場の繁殖管理記録を拝見しました。かつてアカバネ・アイノ両ウイルスが流行した年にも,先天性奇形が1頭発生しただけで,「これらウイルスがいつ流行したのか知らなかった」とのことでした。ワクチン接種を継続することの重要性を実感しました。