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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所蒜山支所 井戸 昭一

 真庭家畜診療所蒜山支所は,湯原,川上,八束,中和の四町村で大小さまざまな飼育規模で飼育されている乳牛約3000頭,特肉牛(和牛)約490頭の診療や損害防止業務を獣医師4名,事務1名で行っています。
 当診療所は,乳牛3000頭のうちその三分の二がジャ―ジー種で高原の放牧場で人懐こい顔をしてのんびり草を食べている姿は,本当にのどかであり,大きな観光資源としても活躍しています。また診療所もそんなすばらしい環境の中でのんびり診療ができうらやましく思われるかもしれませんね。
 しかし,見ると触るの大違いで獣医師の立場でジャージーのそばに立つと,よく言えば好奇心旺盛,素直に言えばすぐに人に近寄り服を引っ張たりするイタズラもので,とにかく愛嬌の有る乳牛ですが特異的な持病もちときています。夏の暑さには,比較的強いのですが,低温には弱く持病の低カルシュウム血症,乳熱の発生が多くなり,時間を問わず診療所消防車の出動が増えてきます。蒜山地区は,県下でも冬の厳しい所だけに,発病しやすい冬期の早朝や夜間の診療は大変です。
 近年,プロダクションメデスンの考えかたに沿って,群管理から事故防止を行う予防獣医学の考え方によるさまざまな対策を広く実施する流れになってきています。
 当診療所も,薬剤感受性試験や繁殖検診を診療所が積極的に酪農家に働きかけて行っており,どの酪農家にも月1回は最低でも顔を覗けて検診することでその牛群の様子も見られるなど効果も上がっていますが,まだまだ低カルシュウム血症や,乳熱の発病をコントロール出来きる域に達していないこと,また狭い地域に多数の牛が飼育されていること,診療所と農家の距離が非常に近く,いつでも往診依頼があり診療に追われ,消防車的仕事が大変な中で時間を作って繁殖検診を実施しているもので酪農家にも十分に浸透しているシステムです。しかし新参の私は検診当初は再診を忘れていたり,カルテと繁殖台帳を照合してみると記入漏れがあったりと,新たな方法に診療スタイルを変えることは初めの内かなりの苦痛を伴ないましたが,最近やっと馴れてきたかなと思えるようになりました。
 そこで気持ちに余裕を持ち,極力頭を軟らかにしてキョロキョロしながら消防車的仕事をやっていれば,繁殖台帳の活用法も広がり多様化する農家ニーズに答えながら,事故防止につながる名案が浮かぶのではないかと願いつつ転勤1年目の冬を過ごしています。