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〔特集〕

自給飼料生産拡大について

岡山県農林水産部畜産課

1 はじめに

 最近発生したBSEや口蹄疫等の家畜伝染病は輸入飼料が原因であると考えられていますが,これらの出来事をとおして,日本の畜産はいかに海外に依存し,多大なリスクを背負いながら成り立っているのかという事を認識させられました。また,昨年明るみにでた一連の食品偽装問題等,消費者においては食の安全性に対する意識が高まった一年であったと言えます。更に,畜産農家においては飼料生産基盤の拡大を伴わない飼養規模の増大が進み,糞尿処理等の環境問題も深刻化しており,今後,飼料基盤に立脚した資源循環型の畜産を確立することが益々重要となります。しかしながら,飼料作物の作付面積は全国的にも増加しているとは言えず,ここ数年間畜産農家数の減少や輸入飼料への依存は強まっており,現実的には減少しています。

表1 飼料作物作付け面積の推移

2 自給飼料の向上に向けて

 こうしたなか,平成12年に農林水産省が公表した「食料・農業・農村基本計画」では,食料自給率の向上,資源循環による農業の持続的発展,農業の多面的機能の発揮等が基本理念とされ,その実現に向けて同年3月に策定された「飼料増産推進計画」においては,飼料自給率の向上が重要な課題となっております。これを受け,県としても「岡山県飼料増産推進計画」を平成13年12月に策定し(平成14年「岡山畜産便り」4月号参照),また,市町村においても県下78市町村のうち6割を超える48市町村が個別の「飼料増産推進計画」を策定され,実質的な自給飼料の増産に取り組んでいるところです。その計画の内容は,飼料増産のための考え方,増産目標,推進方策等について記述しており,平成22年の目標を表2のとおり設定し,その達成に向けた広範な施策を展開することとしています。(作付面積は前年比+2.7%で推移)

表2 岡山県飼料増産推進計画

3 岡山県での具体的な取り組み

 自給率の向上に向けて様々な取り組みを実施していますがその一部を紹介します。

 (1) 畜産公共事業

   草地や放牧林地等の造成整備の実施。
    農業公社牧場設置事業
           (10haH12〜H15)
    畜産基盤再編総合整備事業
          (23.78haH12〜H15)
    草地林地一体的利用総合整備事業
           (32.6haH14〜H16)

 (2) 畜産非公共事業

 飼料作物の作付拡大を図るための飼料作物調製用機械(3台),未利用資源の有効活用を図る目的で国産稲わらを利用拡大するための機械整備(8台)の他,日本型放牧実践のための牧場整備や,飼料増産に取り組む営農集団が単収の向上等の技術・営農実証した場合への助成事業(5集団)等。

 (3) 指定助成事業

 国産粗飼料増産緊急対策事業への取り組み

  @ 自給飼料生産基盤拡大
  A 国産稲わら等確保促進
  B 稲発酵粗飼料給与技術確立

 個々の事業内容については省略しますが,稲わらについては飼料として利用できるものの,ほ場条件や人的要因からその大半がすき込まれているのが現状です。口蹄疫の発生を契機に輸入稲わらから国産稲わらへ転換していく必要があり,更に収集量を確保するため,収集組織への助成の他,需給状況や利用状況を調査し,稲わら供給可能者リストを作成する等,その利用促進に努めています。
 稲発酵粗飼料については,米の生産調整が推進されるなか排水条件の悪い水田においても栽培が可能な飼料作物として,現在全国的に栽培面積が拡大されています。今年度本県では,3か所で実証展示ほを設置した他,専用品種導入による単収向上を図るなど,当指定助成事業に係る栽培面積は,昨年21haから今年度は25haへと増加しました。なお,今年度の自給飼料共励会は稲発酵粗飼料を中心とし,その栽培・調製技術の向上を図るとともに,利用者(畜産農家)に向けての研修会も予定しています。
 その他,トウモロコシの二期作栽培,水田放牧,トウモロコシ等の長大作物を対象としたカッティングロールベーラー(開発中)の実演,公共牧場の利用促進等様々な取り組みを実施してきました。
 今後,単収の向上,土地の集積,作業の機械化,外部委託等への取組も必要となっていますが,増産に伴い畜産農家の作業的な負担は増大することから,今後コントラクターの育成・強化を推進することが重要で,その第一歩として昨年3月に岡山県コントラクター協議会を設立し,飼料生産作業のシステム作りを普及拡大することとしています。

(写真1)和気町:稲わら収集作業
国産稲わらの飼料としての利用は全国ベースで11.5%(H12年度)
と今後の利用拡大が望まれる
(写真2)津山市:稲発酵粗飼料収穫調製作業
稲発酵粗飼料は水田等,排水条件の悪いほ場で飼料作物の栽培が可能
表3 県下6コントラクターの取組状況

4 おわりに

 県計画策定後1年が経過しましたが,飼料増産の重要性は益々高まっております。世界人口は,現在の約60億から50年後には100億近くなると予想され,さらに開発途上国での畜産物の消費が増加しつつあります。また,地球温暖化,農地の減少といった現状も無視できず,輸入飼料に頼っている今の畜産経営が今後も成り立つ保障はありません。飼料増産は単に畜産側からみた生産費の低減だけでなく,国土の保全,国民の食の安全・確保といった役割も担っており,現状の農地面積を極力減少させないようにすることは極めて重要な課題と言えます。自給率向上を図るための手段は先に示した以外にも多岐に渡り,それらをうまく取り入れながら,各地域に適した取り組みを推進していくことが必要です。