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〔地域情報〕

『千屋牛』と太田辰五郎

阿新地方振興局農林水産事業部農業振興課畜産係

○はじめに

 阿新地区は「和牛のふる里」として,また,生産される肉用牛は『千屋牛』ブランドとして,県内外に広く知られるようになりました。昨年の第8回全共では阿新地区の出品牛が好成績を収めることができ,また和牛価格はBSEの影響も収まって,千屋牛,そして岡山和牛は益々追い風に乗れそうな気運です。
 そんななか平成14年11月24日に,かつて岡山県の肉用牛改良に尽力し,また畜産以外にも様々な産業振興に貢献した太田辰五郎(1802〜1854)の生誕200年を祝う記念イベントが,新見市千屋で盛況に開催されました。
 今回はそんな偉人の紹介を含めながら,千屋牛の歴史,そしてこれからについてお伝えしたいと思います。

○千屋牛の始まり

 辰五郎は,享和2年(1802),備中国阿賀郡実村(現在の新見市千屋)に,太田家の長男として生まれました。太田家の先祖は,元々武蔵国(東京都多摩地方)の豪族で,千屋で砂鉄を発見,以来千屋に移住し鉄山業で財を成し大地主となりました。5代目にあたる辰五郎は,家業を伸ばすとともに,植林や開墾,とりわけ和牛振興に力を注ぎました。
 1820年前後,長雨,あるいは干ばつなどの異常気象により米が不作の年が続きました。辰五郎は,「なんとかせにゃいけん。米ができんとかんな流し(池から池へ泥水を流し砂鉄を精製すること)に皆が力を入れる。荷物を運ぶ牛がもっと必要になるな。そうじゃ,牛を増やして売る方法を考えよう!牛は草があれば飼えるし,糞を肥やしに米がよく獲れるようになれば,村の暮らしが豊かになる…。」こう考え,以後牛の増頭,改良に尽力していったのです。

○和牛改良,そして牛市の開催

 当時の牛は,良くて2年に1産,3年に1頭も生まない牛が普通でした。まず増頭が重要と考えた辰五郎は,より多く子を産む牛を作るため,周辺地域の飼育技術を学び,また商用で上京する際には牛市を見て歩き,気に入った牛を買って帰ったりしました。努力の甲斐あり,元来小型種の千屋牛を,大型で多産,丈夫でおとなしい和牛に改良することに成功したのです。その優秀な牛は,「大赤蔓」と呼ばれ,現在の千屋牛の基礎となり,また現在の岡山県の種雄牛の多くはこの系統と言われています。
 こうして千屋地区の牛の頭数は年々増え,天保3年(1832)には千屋で初めての牛比べ(品評会),天保5年(1834)には第1回の牛市が盛大に開催されるまでに至りました。農民達は,産業としての“牛飼い”の確立を大いに喜んだのです。

現在も盛況な共進会(H14郡共より)

○辰五郎生誕200年

 前記のように辰五郎の生誕200年を迎え,偉人を偲ぶ記念イベントが千屋振興会並びに千屋地域づくり推進委員会の共催により,千屋市場跡で開催され,会場は活気に包まれました。かんな流しの実演,千屋に伝わる牛追唄が披露され,また牛のせり市にちなんで千屋牛肉のせり売りが行われ,用意された100s分の千屋牛肉がたちまち売り切れる盛況ぶりでした。

盛り上がった牛肉のせり売り

 辰五郎の振興した産業が脈々と今に伝わる様子を目の当たりにできる内容でした。なかでも牛の調教技術の象徴である碁盤乗りが,新見北高校の生徒達により披露され(表紙写真),注目を集めました。難易度の高い2頭同時の碁盤乗りが成功した時は,観客から大きな歓声があがっていました。

○これからの『千屋牛』

 阿新地域内一貫生産体制の確立など,5つの新しいコンセプトにより,平成13年度に新『千屋牛』はスタートしました。和牛繁殖者の高齢化,後継者不足,中山間地の土地条件の悪さ等,地域的課題はいくつかあります。しかし,先に紹介した新見北高校の生徒達は,昨年の新見市共進会でグランドチャンピオンを獲得するなど活躍し,後継者となるべく頑張っています。また,地域としては,休耕地利用等による牧野および草地の拡大や,安全な自給飼料増産が推進され,増頭計画も進められるなど,千屋牛振興に向けて生産者,関係者一丸となって日々前向きに努力しています。全共の好成績を励みに,消費者ニーズに合ったおいしい牛肉を届けたいという情熱のもと,太田辰五郎ら先人達の残した大きな遺産『千屋牛』は,これからも絶えることなく益々発展し続けることでしょう。

年表・千屋牛に関して(抜粋)

1830頃 竹の谷蔓造成。
1834 太田辰五郎,千屋牛市開設。
1910 第1回 阿哲郡畜産共進会開催。
1920 第13花山号,新郷村(現神郷町)に生まれる。
1956 岡山県千屋種畜場が和牛試験場へ改組。
1967 和牛試験場大佐町へ移転。
1968 阿新地区家畜市場を新見市場へ統合整備。
2000 千屋牛振興会設立。
2001 5つのコンセプトで新「千屋牛」初出荷。
2002 第8回和牛全共で岡山牛活躍。

・参考文献:藤原嗣治著「太田辰五郎物語」
(新見ライオンズクラブ発行)