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これからの畜産物の研究開発について

岡山県総合畜産センター経営開発部 栗木 隆吉

1 はじめに

 現代ほど,食べものと健康の関係が注目されている時代はないでしょう。我が国から「飢え」の状況がなくなり,長寿を背景に病気の不安を取り除き,健やかな老後を送りたいと誰もが望む時代になりました。よく耳にする言葉ですが「医食同源」,人々はあらためて食と健康の大切さを認識しています。
 また,科学の進歩によりヒトの身体に対する食品やその成分の働きがより詳細に理解され始めています。一般に,食品には次の3つの機能があるとされています。第1に身体を作る栄養機能,第2に嗜好性の機能,そして,第3の機能は生体調節に関与する働きです。この第3の機能を生かした食品が「特定保健用食品」で,厚生労働省により許可要件を満たしていると認められた場合,その保健機能(身体によい効果)を表示して販売することできます。平成15年2月現在で,330品目が承認されています。

2 畜産物の機能特性

 現在,食べものの機能特性について盛んに研究されていますが,畜産物についてみると,乳では@乳酸菌によるはっ酵乳の整腸作用や免疫賦活作用,A乳タンパク質由来のペプチドによる降圧作用やカルシウム吸収促進作用,Bラクトフェリンなどによる抗菌作用などが研究されています。肉では,C牛肉の抗疲労効果,D食肉や副産物,血液由来のペプチドの降圧作用やコレステロール上昇抑制作用などが知られています。
 しかし,特定保健用食品として承認されているものは,ほとんどが@,Aに関係するもので,特に,食肉に関するものは,食肉本来の機能ではなく,食物繊維や大豆タンパク質の添加により承認されており,畜産物の機能性に関する研究は緒についたところといえます。
 こうした機能特性の研究が進む中で,食品の特性が再認識され,その結果,生産方法や貯蔵,加工,流通,調理といった一連の食システムが影響を受けることでしょう。このことは,畜産物にとっても例外ではなく,流れを積極的にとらえれば,地域畜産物の付加価値向上や消費の拡大に結びつくことが期待できます。それは,機能性食品という分野に限らず,食の安全や品質についても同様であり,消費者の関心の高さをいかに製品作りに活かすかが重要です。

3 総合畜産センターにおける取り組み

 当センターでは,現在,畜産物の機能性をテーマに2つの試験課題が進行しています。以下にその内容を紹介します。

 (1) 機能特性を強化した畜産加工品の開発

 タンパク質を酵素で分解して生じるペプチドに血圧上昇抑制作用や抗酸化作用があることは広く知られており,鰯ペーストを酵素処理して得られるジペプチドや,乳酸発酵産物であるラクトトリペプチドなどを利用した製品がすでに特定保健用食品として承認されています。そこで,鶏肉を酵素処理してその機能特性の変化を調べるとともに,以前,工業技術センターと共同で開発した鶏肉発酵調味料についても同様に検討しています。
 図1は,2種類のタンパク分解酵素で鶏肉を処理したときのアンギオテンシン変換酵素(ACE)阻害活性の変化を表しています。ACE阻害活性は血圧上昇抑制効果の指標となります。酵素処理開始8時間後にはかなりの阻害活性が認められました。

図1 酵素処理によるACE阻害活性の経時的変化

 図2は,ラジカル消去能を調べた結果を示しています。ラジカル消去能とは生体内に作られるラジカル(酸化を促進し,細胞の老化や変異を引き起こす)を消す活性をいいます。酵素処理によりACE阻害活性ほどではありませんがラジカル消去能も上昇しました。
 発酵調味料ではさらに強い活性が認められました。現在,これを強化する方法について研究を進めており,機能性食品として商品化を目指しています。

図2 酵素処理によるラジカル消去能の変化

 (2) 地域食品製造副産物を利用した高機能畜産物の生産技術の開発

 この課題は,食品工場から産出される副産物に含まれる機能性成分を飼料として利用し,地域畜産物の品質改善に役立てることを目的としており,蒲ム原生物科学研究所をはじめ県内企業の協力を得て平成14年度より始めました。副産物中に含まれる機能性成分を調べ,それを鶏や牛に給与し,生産物の品質に対する効果を検討中です。

4 これからの展開

 これまで畜産の研究というと生産性の向上や効率化が中心でしたが,近年は品質を重視した課題が増えており,より消費者や実需者のニーズを意識した取り組みとなっています。食品の機能特性の研究やそれを積極的に活かした製品作りは,健康で健やかな生活を送りたいと願う消費者の意識と相まってさらに進展していくものと考えます。岡山県では,昨年9月に「バイオアクティブおかやま」を設立し,県下の産官学が協力して岡山発の機能性食品の開発を目指しています。当センターでは,今後も県内で生産される畜産物の品質を調べ,消費者のニーズ,とりわけ安全や機能特性を考慮した品質改善の試験研究を進めていきます。