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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

家畜臨床研修所 谷 孝介

 乳牛の心不全が増加しています。
 心不全の乳牛での発生は,平成8年度を100とした時,全国で12年度166%,岡山県でも13年度171%(227頭)と年々急激な増加がみられ,過去3年間で616頭発生し,99%が死亡しています。3年間に24頭発生した農家もありました。
 更に詳しく調べてみますと,県下の発生率1.0%を超える地区は夏が高温多湿で夜間も高く,冬は防寒が不十分でした。発生率が0.3%の県北部は夏の夜間が比較的涼しく,冬の防寒設備が整った地区でした。8・9月,12・1月は月に20頭を超え,2月〜6月は月に15頭以下の発生でした。発生頭数の増加は,環境性ストレスの増加が窺えました。乳期では分娩前60日〜分娩後90日の期間(調査できた頭数264頭)で67%(174頭)が発生し,発生が集中していました。
 飼養状況では50頭までの規模が56%で116頭発生し,発生率2.8%と高く,年齢では,6カ月〜2歳でも100頭発生しました。発生率では5歳から1%を超え15歳でも8%を超え,加齢により発生率が高まっていました。
 代謝関係では,BCSは乾乳時3.5から分娩後にかけ0.5低下し,その後の90日間では回復がみられませんでした。乳量は分娩から10日で41.6s/日,その後減少し90日後に34.4sと減少しました。このことから分娩後にバランスの保たれたエサを充分に食い込めない状況が推測できます。また次の血液検査からもエサが食い込めない状況がみられました。
 血液検査では,エネルギーが不足した状態で分娩,この分娩によりストレスが増し,更に分娩10日後でエサの質が高エネルギーと成るため体脂肪が動員し肝臓への負担が窺えました。
 調査した血液やBCS,乳量の推移から畜主の気付かないところで,分娩時のエネルギー不足と乳量の急激な増加に伴う衝撃的なストレス,また乳量を求めた分娩後の高エネルギーなエサ給与によるルーメンpHの低下からアシドーシスを発生し,更に肝機能に負担が増した結果,心不全の増加につながったと思われました。

心不全の対応策

 エサの適正給与:畜主の観察や認識不足を補うため血液検査や乳検データを基にエサの過不足の修正を行います。乾乳時の過肥や乾乳後期の選び喰い,喰い止まりの防止と分娩後の増飼に伴う粗飼料の量と質の充実,蛋白質の添加に注意を行います。分娩後の増飼は20日以上の期間を持って段階的に行います。
 環境面の改善:夏は特に夜間を涼しく(暑熱対策),冬はすきま風,水道の凍結防止など(防寒対策)に努め,50頭規模までの農家や5歳以上の牛,この時期に分娩となる牛の疲労の蓄積を解消しストレスの除去(牛床改善,蹄病処置など)に努めます。
 心不全の発生を減らす日々の管理は,分娩前後の牛を要注意牛すなわちターゲットとして異常をチェックし,獣医師の定期的なバックアップにより,各種のストレスを消去することが,心不全を防止する有効な対応策と考えます。