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〔普及現場からの報告〕

飼料用イネの救世主誕生か!?

東備農業改良普及センター

◆脱粒しない食用米

 飼料用イネに取り組むと,子供の頃,茶碗に飯粒を残し叱られた思い出が甦る。収穫後の圃場は籾で覆われ,牛への給与時には,飼槽やラップ開封場所が籾の絨毯と化す。米を大事に育ててきた稲作農家には心の痛む光景だろう。
 東備地域の場合,飼料用イネの専用品種は利用せず,食用品種の「朝日」「アケボノ」を飼料用として利用している。しかし,これら食用品種は脱粒しやすく,既存のロールベール体系での収穫調製は脱粒との戦いとなる。が,脱粒しない,お米になりにくいという特性は食用米にはあり得ない。

◆脱粒の現状

 いったい籾がどの位落ちるのか?
 昨年,「アケボノ」収穫後の圃場を調査した。自走式のロータリーモアで刈り取り後,レーキで1回反転し,90pのロールにした圃場であるが,実に8,300粒/uもの脱粒があった。通常籾の収量は30,000粒/uと言われており,28%の脱粒ロスとなる。1反当たり3俵近くをみすみす圃場に播いているのである。

◆日本一の晩生米生産地「岡山」

 全国的には専用品種の導入が進んでいるが,本県では食用品種が主体となっている。平成14年度の岡山県自給飼料共励会へ出品されたイネホールクロップサイレージも,17点中専用品種の出品はわずか3品のみであった。
 なぜ,食用品種が流行るのか?
 最大の要因は,稲作農家の受け入れやすさだろう。栽培方法は変わることなく,種子や苗も手軽に手に入る。ある育苗センターでは,専用品種の種子が大きいため育苗箱への機械播種ができなかったとの話も聞いた。
 また,自家採種する農家には交雑への心配は大きい。
 東備地域の場合,基幹品種となる「ヒノヒカリ」の出穂期は8月27日。専用品種「クサノホシ(中国147号)」の出穂期が8月29日,花粉の飛散距離300mともなると,自家受粉とはいえ交雑の危険性は否めない。また,専用品種に長粒種の血が入っていることも稲作農家の不安を助長している。
 さらに,専用品種の最大の魅力は収量だが,それは早生系品種と比較した場合であり,晩生品種の「朝日」「アケボノ」を飼料用として利用した場合,収量の差は大きくない。広島県では,専用品種「クサノホシ」の乾物収量を1,100〜1,300s/10aと報告しており,「アケボノ」の予想乾物収量1,100sとあまり遜色がない。
 専用品種を否定する気持ちは決してないが,全国一の晩生品種生産地の本県では,稲作農家が持つ専用品種への不安を完全に払拭できる材料はまだ乏しいのが現状だ。

◆「せとこがね」への期待

 品種名「せとこがね」。
 「朝日」「アケボノ」に変わる晩生品種として平成元年に県の奨励品種となる。しかし,平成10年に奨励品種からはずれる。理由は定かでないが,難脱粒性が原因との噂あり・・・。
 200gの種籾を手にしたとき,小さな期待を抱いた。農家の圃場へ田植えし,手作業での稲刈りと脱穀を終え90sの種籾を手にした昨秋,期待は大きなものへと変わった。確かに手刈りした圃場には脱粒がほとんど無く,脱穀には手間がかかったのである。

◆飼料用イネの救世主?

 脱粒しにくい食用米が存在した。しかも,栽培方法を変えることなく,交雑の心配もない。稲作農家と畜産農家の不安と不満を一度に解消する可能性を秘めた夢の品種だ。
 今,国や県が躍起になって取り組んでいる自給粗飼料の増産については,飼料用イネこそが救世主として取り囃やされている。が,畜産農家の経営的に見れば,飼料用イネが安定的に,しかも,適当な価格で手に入ることが重要だ。そのためには,飼料用イネ流通量の増大,すなわち,より多くの稲作農家に飼料用イネが受け入れられ,作付けされることが近道だろう。
 「せとこがね」が飼料用イネの救世主となるか。その真価は今年試される。