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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

勝英家畜診療所 次長 豊田 幸晴

 夜間当番の為,診療所に居残っていた私は,テレビを付け何気なく見ていた。すると抗生物質に対する耐性の事について番組が流れ出した。内容は肺炎球菌に対する耐性の事であり,従来はアンピシリンとセフェム系抗生剤でそのほとんどが完治されていたが,今ではその2種類の投与だけでは治らない耐性菌ができてきたということで成人も子供も約80%以上が耐性菌であるという事だった。
 耐性菌の出現は抗生剤の混用によるところが多く,菌と抗生剤とのいたちごっこであり,こうした問題を解決していく為の取り組みとして総合病院と個人病院の事例を紹介していた。総合病院では感染防御チームを作って,きつい抗生剤を使用する場合は担当医と感染防御チームとが話し合い使用すべきかどうかを検討する。きつい抗生剤の安易な使用をさけるということであった。又,個人病院では,新たに検査室を作り菌の同定,その菌に対するMIC(最小発育阻止濃度)を測定することで,菌に有効でなおかつ優しい抗生剤の使用を目指していたが,問題は検査結果で効くという薬でも個体差があり,効かない場合もあって抗生剤の選択は非常に難しいという事だった。抗生剤に対する菌の耐性の問題について真剣な取り組みが行われているのだと思いながら見ていた。
 さて我々の診療現場はどうだろうか。私が共済連に入った25年前は抗生剤といっても数種類のものしかなく,あまり抗生剤の使用について考える事はなかった。しかし,今はその数倍もの種類の抗生剤の使用が認められそれを自由に使えるようになったのだが,25年前よりもすばらしく治療成績が上がっているかというとそうではない。かえって以前よりも治療成績は落ちているのではないかとさえ思える。抗生剤の選択ということで問題になるのは,乳房炎が好事例だと思う。最近の乳房炎はなかなかうまく治らない。これまで乳房炎がどの菌で起こりどの薬が効くのか一頭一頭検査して治療してこなかったという事が,原因の一つにあげられる。どの薬剤が効果があるのか分からない為,勢い抗菌性の広いきつい薬にその解決を求める傾向にあった。最初はうまくいっていてもすぐに効かなくなってしまう。抗生剤が効かないと乳房炎に対する治療もてずまりという事になってしまって困っているというのが現状だと思う。よく農家に行くと抗生物質の残留や体細胞数の検査依頼のサンプルビンが置いてあって集乳便で持ち帰り夕方までには電話やFaxで連絡がある。それを見て何時も思うのだが乳房炎の乳汁をサンプルビンにとり夕方までに菌の同定と薬剤の感受性が分かれば便利なのだが。そうすれば使用する抗生剤も適切なものになるし,なるべく優しい抗生剤を使用することもできる。
 黄色ブドウ球菌というやっかいな乳房炎菌が酪農家に蔓延してきている今,これ以上の抗生剤と菌とのいたちごっこを繰り返すことなく,抗生剤の使用に関してもっと真剣に考える必要性を感じた。
 酪農家サイドでは,乳房炎を起さないように搾乳衛生に気を付け予防を行ってもらい,我々獣医サイドでは治療の合理性に向けた取り組みを関係団体とともに積極的に作り上げていくことが重要な事だとテレビを見ながら思った。