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〔特集〕

平成15年度畜産施策の推進方針

岡山県農林水産部畜産課

 我が国の農業は,高齢化の進展や担い手不足,農畜産物の輸入量の増加,牛海綿状脳症(BSE)の発生,更には食肉表示偽装問題などによる消費者の食品に対する信頼の低下など厳しい環境が続く中,安全で良質な農畜産物の安定供給や農業・農村の果たす多面的機能への期待は高まっており,畜産施策もこのような情勢の変化に対応しながら推進する必要がある。
 このため,農業の持続的発展と食料の安定供給の確保,農業・農村の振興と多面的機能の発揮を目途ととして国が制定した「食料・農業・農村基本計画」や「県酪農及び肉用牛生産近代化計画」,更には「県新世紀おかやま夢づくりプラン」に沿って,生産性の向上と低コスト生産はもとより,環境に配慮した畜産を展開することとし,「家畜排せつ物の適正な処理と利用の促進」「自給飼料の増産」「家畜疾病の防止」「新技術の開発普及」などに取り組み,活力と持続性に富んだ畜産経営の実現に努める。
 とりわけ,消費者の食に対する信頼が揺らぐ中,「岡山県食の安全推進本部」を設置し県民への情報提供を通じた食の信頼回復のための「安全・安心対策」を展開しており,畜産分野でも「家畜個体識別情報システム」「牛肉トレーサビリティーシステム」「おかやま地どり特定JAS規格取得」など,安全な流通体制の確立を積極的に推進することとしている。

1.酪農対策

 国際化の進展と国内産地間競争が激化する中,近年では消費者の本物志向の高まりから,生乳を使用した乳製品への需要が高まっており,加工乳・乳飲料等の消費の鈍化や脱脂粉乳等の在庫が増加する傾向にあるほか,県外導入牛の高騰傾向から更新の遅れによる乳質の低下をきたすなど厳しさを増している。
 こうしたことから,「おかやま酪農協」と一体となり,HACCPの考え方に基づく生乳の品質管理体制の強化や広域指定団体への支援,後代検定・牛群検定,雌雄判別受精卵移植,県産後継乳用牛の確保など改良増殖対策の推進,転作田や耕作放棄地の有効活用による自給飼料の増産,更には公共育成牧場の機能強化による活性化の促進を図る。
 さらに,平成17年度に栃木県で開催される「第12回全日本ホルスタイン共進会」に向けた県出品対策協議会の立ち上げ,出品候補牛の掘り起こし対策,出品技術講習会の開催や優良牛の導入助成など,ポスト岡山全共へ向けた取り組みを展開する。
 また,地域特性を生かした牛乳乳製品の製造販売など,農業の6次産業化も視野に入れた付加価値の高い生産構造へ誘導するほか,中国四国酪農大学校を中心として国際感覚・経営感覚に富む人材の育成を図る一方,酪農ヘルパー組織やコントラクタ組織の育成などを通じ「ゆとりある酪農経営」の実現に努める。

2.肉用牛対策

 BSEの発生や食肉偽装事件の影響から低迷していた牛肉消費や子牛価格も回復傾向にあるなど明るい兆しも見えている。
 しかしながら,消費者の安全・安心志向の高まりや,WTO交渉での関税率の見直し要求など,さらなる良質畜産物の生産や輸入に対応した低コスト生産の実現が重要となっている。
 このため,第8回全国和牛能力共進会の成果を基にした育種価や後代検定を活用した産肉性の高い種雄牛づくりと肥育技術の普及定着,電気牧柵を利用した和牛放牧の促進,地域内一貫生産体制の拡大,さらには,乳牛を借り腹とする優良和牛受精卵の移植促進を通じて低コストで高品質な「おかやま和牛肉」の安定生産を推進する。
 また,昨年度から開始した和牛肉の生産履歴追跡システム「トレーサビリティーシステム」の対象を乳用牛や交雑種にまで拡大するほか,店頭牛肉パックへの個体識別番号の導入を図るなど,消費者への安全安心対策を充実強化する。
 さらに,「おかやま和牛肉」を全国ブランドとして定着させるため,首都圏での販売促進活動の展開や,来年3月完成予定の県営食肉卸売市場の部分肉処理棟の建設をすすめるなど,生産から消費に至る総合的な取り組みをすすめる。

3.養豚対策

 国際化の進展に伴う豚肉輸入量の増大や,高齢化等による飼育戸数・頭数の減少がすすむ中,引き続き価格安定対策を講じながら,経営感覚に富む企業養豚の推進を図る。
 特に,優良種豚の導入による肉質の向上と斉一化をはじめ,人工授精の普及定着や省力飼育管理技術による低コスト生産を推進するとともに,消費者の多様なニーズに対応するためSPF豚,黒豚等の高品質肉豚の生産を図りながら,環境と調和のとれた生産団地を育成する。
 「おかやま黒豚」は,総合畜産センターが優良な種豚を生産供給するほか「おかやま黒豚銘柄推進協議会」が中心となって積極的なPRや指定店による消費拡大を展開するなど,産地の拡大と銘柄化を推進する。

4.養鶏・養ほう対策

 鶏卵は,鶏卵需給調整対策の見直し内容に沿った計画的生産振興に努めるとともに,価格安定対策を通じた卵価の安定化に努めるほか,サルモネラ汚染防止等の衛生的飼養管理を推進する。
 鶏肉は,安全で高品質な鶏肉の供給を基本として,効率的・衛生的な飼養管理による生産性と品質の向上に努めるほか,新たに腹腔内脂肪量の少ない系統の開発に取り組む。
 また,昨年12月に特定JAS規格を取得した「おかやま地どり」については,表示の普及を図りながら消費者の安心確保と消費の拡大に努める。
 養ほうは,耕種農家との連携によるレンゲの作付拡大や,ユリノキ等のみつ源増殖を図るほか,円滑な転飼調整に努めるなど,安定的なはちみつ生産を推進する。

5.飼料対策

 自給飼料増産を目途として策定した「岡山県飼料増産推進計画」に基づき,草地の計画的造成整備を推進するとともに,耕作放棄地を有効利用した放牧の推進や転作田への飼料作物の作付拡大,さらには優良草種・品種の導入による単収の向上を目指す。
 また,耕種農家との連携を強化し,既存水田の活用による稲ホールクロップサーレージ(稲発酵粗飼料)の普及や,稲わら等の未利用資源の利活用,さらにはコントラクタ(飼料生産受託組織)を育成し,飼料基盤に立脚した低コストで労働負荷の低い経営の確立を目指す。

6.家畜衛生対策

 国際化の進展や国内流通の広域化に伴い,口蹄疫やBSEなどの悪性伝染病が我が国へ侵入するなど,畜産経営に大きな被害をもたらしていることから,家畜保健衛生所,家畜病性鑑定所を中心に岡山県畜産協会等関係機関が一体となって危機管理体制の整備や監視体制の一層の強化を図るとともに,伝染病発生時の迅速な防疫対策の展開を行う。
 一方,国内で発生を見ている慢性疾病等については発生を未然に防止するためサーベイランスや予防接種を推進する。
 特に,昨年発生したND(鶏ニューカッスル病)についてはワクチン接種を含めた衛生指導の徹底をすすめるとともに,県内で多発しているヨーネ病についても乳用牛の全頭検査を実施するなど検査体制の充実強化を通じて清浄化に努める。
 また,本年度からBSE対策特別措置法に基づき義務づけられた「24ヶ月令死亡牛」のBSE全頭検査を行うための施設・体制等を整備する。
 さらに,消費者の安全・安心志向に応える「サルモネラ」や「大腸菌O−157」等の汚染防止を図るため生産現場での衛生管理の徹底や,農業共済家畜診療所と連携した死廃事故の低減を通じ農家経営の安定化に努める。

7.環境対策

 経営規模の拡大や市街化・混住化の進展に伴う環境問題,「家畜排せつ物の管理の適正化及び利用の促進に関する法律」(家畜排せつ物法)に適切に対応するため,土づくりを基本とした耕種農家との連携強化による家畜ふん尿の有効利用,家畜ふん尿処理施設の計画的な整備,高品質な堆肥の製造,さらには食品残さ等有機資源も含めた堆きゅう肥の利用促進や,バイオマス資源としての家畜ふん尿の有効利用を図るなど,環境と調和のとれた畜産経営を推進する。

8.技術開発と普及定着

 バイオテクノロジー等の先端技術を活用した雌雄判別卵の凍結技術や胚・体細胞クローン技術の確立,家畜改良へのDNA利用,さらには胚凍結精液の実用化,尿汚水の簡易無臭化技術の確立など,畜産農家の生産性向上や低コスト生産に直結した試験研究に取り組むとともに,消費者ニーズに対応した畜産物加工品生産のための技術開発と普及に努める。