ホーム > 岡山畜産便り > 岡山畜産便り2003年5・6月号 > 堆肥利用の耕種農家を訪ねて(5)

〔シリーズ〕堆肥利用の耕種農家を訪ねて(5)

津山市 仁木健祐さん
堆肥を施肥することで,田圃に地力がつき米に付加価値がつく

社団法人岡山県畜産協会 経営指導部 大村 昌治郎


写真1 仁木健祐さん

 朝食に,温かいごはんと,納豆? それとも,からし明太子? どちらにしても,たまらない組み合わせですね。あなたは,朝食にしっかりとごはんを食べてますか? 温かいごはんに,ちょっとしたおかずがあれば,もう幸せなことこの上ないですね。
 「堆肥を利用した耕種農家を訪ねて」のシリーズでは,これまで小松菜などの軟弱野菜,ブドウ,ナス,黒大豆と連載してきましたが,今回は,日本においてもっとも作付面積の多い水稲を取り上げます。
 水稲の作付け面積は作物別にみれば多いのですが,全国レベルでの稲作における堆肥の施肥量は年々減少しています。その背景には,兼業化や高齢化による散布作業のための労働力不足に加えて,窒素の過剰施肥による食味の低下,米価の低迷により堆肥などの資材購入費用の支出削減があげられます。
 今回は,津山市で大規模な水稲栽培でありながら,堆肥を利用されている仁木健祐さんを紹介します。仁木さんの経営では,水稲を栽培するだけに止まらず,米の販売にも積極的に取り組まれています。ミニライスセンターによる乾燥,調製をはやくから手がけており,取り組みはじめてから25年くらいになるそうです。スーパーや給食センターと契約して,直接販売しているそうです。長年,堆肥を施用していたため,以前は有機米ということで販売していたそうですが,今では,JAS 法の関係で「有機」という名を消して販売しているそうです。
 このほかに,水稲栽培の他に,水稲の受託作業を行っており,その受託面積は約30ha(約80戸)になります。作業の受託内容は収穫,耕起,田植え作業等を請け負っています。


写真2 田植え後の田圃

1.栽培作目と面積

 仁木さんの水稲栽培面積は16haで,栽培品種は,こしひかり,きぬひかり,ひのひかり,もち米です。
 労働力は,本人と妻と息子の3人に,雇用労働力が1人です。秋の収穫シーズンには,パートの人を大勢雇っています。
 仁木さんが水稲に堆肥を利用してすでに何十年と経っています。正確に言えば,堆肥の利用は,父の代から自分の代に引き継いだと言った方がいいでしょう。昔は,田に堆肥やふん尿を散布することは当たり前であったし,ほとんどの農家が牛を飼って,その堆肥を利用していました。
 仁木さんも,和牛の繁殖牛を飼っており,現在,繁殖成雌牛を6頭を飼養しています。今では,息子さんがもっぱら牛の世話をしているそうで,成雌牛をこれから増やしていこうと考えられています。
 今では,仁木さんの周りでも,堆肥を散布している水稲農家はほとんどいないそうです。堆肥を散布することに,仁木さんは悪い面はなく,むしろ良い面がたくさんあると言われますが,労働力不足や米価の低迷により堆肥購入費が縮小されていくため,堆肥を散布しない稲作農家が増えているようです。

2.堆肥の施用状況

 仁木さんは,堆肥の施肥量を10a当たり1トンとして,連年施用しています。堆肥の散布時期は12月で,マニュアスプレッダーを使って堆肥散布を行っています。堆肥を入れて,土作りをしているので,その分,基肥は幾分か減らして,全体の施肥量を過不足のないように調整しています。
 冬場に堆肥散布を行うので,一番困ることは,雨や雪によって,田圃が緩くなることだそうです。田圃が緩くなるとトラクターの大型機械が入れず,作業できなくなります。作業できる時期は少ないので,堆肥散布のタイミングがとても重要になってきます。散布できる日には,できるだけ散布面積を稼ぐため長時間散布するので,労働的にかなりきついと言われます。

3.現在,利用している堆肥について

 仁木さんが利用している堆肥は,近くで酪農経営をしている三谷牧場の乳牛ふん堆肥です。この乳牛ふん堆肥は,副資材にモミガラを使っていますが,このモミガラは,仁木さんのところでできたモミガラを無料で持って帰って副資材として利用されているそうです。モミガラを提供しているかわりに,仁木さんは堆肥を無料で譲り受けて水稲栽培に利用しています。
 三谷牧場は,乳牛の経産牛30〜40頭規模で,通常,堆肥は軽四1ぱい2,500円で販売しています。仁木さんとは,すでに20年来のつきあいになるそうです。最近では,堆肥の品質が良くなってきているので,評判がよく,堆肥の販売量が増えているとのことです。他のお客さんが買ってしまうので,仁木さんのところで使う分がなくなるのではないかと心配されています。しかし,酪農家の堆肥が販売できることは良いことだと仁木さんは言われます。他の牧場でも良いものができれば,利用してくれる人がいるので,必ず売れるのではないかと言われます。
 水稲栽培においては,米価が安いため,堆肥にあまりお金をかけられないのが実情のようです。また,水田に散布してから田植えまでに期間があるため,十分堆肥化したものを散布する必要はなく,堆肥化処理中のものでもよいそうです。堆肥の品質よりも価格の方が重要な要素といわれます。副資材にモミガラを使うことで,散布の時,マニュアスプレッダーに負担をかけないというメリットがあります。


写真3 三谷牧場で発酵中の堆肥

写真4 仁木さんのミニライスセンターからでたモミガラ

4.堆肥の施用効果について

 仁木さんのところでは,親の代から堆肥の連年施用を行っており,少なくとも40〜50年は続けているそうです。有機物として堆肥を投入することで,田圃の地力が落ちることはありません。
 堆肥を施肥すると物理性が改善され,土のしまりが違うので,ふかふかしてくるそうです。そのため,土壌は固くなく,ほぐせばきれいに砕けるそうです。田圃を歩いても,その違いが分かるそうで,田圃の土を踏んだときの感触がとてもやわらかいと仁木さんは言われます。土がとてもやわらかいから,機械での作業がしやすくなるそうです。このようにやわらかくなった土壌は保水性に優れているとのことでした。また,堆肥を入れた水田で収穫された米ということで商品価値が高まり,化学肥料だけで栽培した米とは,区別して扱えるところに大きなメリットがあるそうです。
 仁木さんは,もち米も栽培しており,津山の製菓会社に販売しています。あるとき,ここの主人は,良いもち米を求めて,仁木さんを訪ねてきたそうです。もち米栽培にも当然堆肥を利用しているため,堆肥を利用していない水田と違って,土がふかふかして柔らかいと評価されて気に入ってもらえたそうです。
 堆肥を入れることで,水稲の生育が,目に見えて違うという感じはないものの,いくぶん生育は違うようである。また,土壌がやわらかいため,根の張りがよくなるそうです。
 収量についても,堆肥を投入したため土壌の性質が安定しているので,年ごとの水稲の単収は変わらず,安定しているそうです。
 水田では,家畜ふん尿や堆肥のような有機物を適量施用すれば地力が増えると言われています。しかし,水稲は窒素過剰障害のでやすい作物なので,施用基準は窒素の供給量を低めに抑えたものになっています。仁木さんも,窒素が過剰にならないように,堆肥の投入量も10a当たり1トンです。堆肥と基肥で窒素供給量を調整しているため,水稲が倒れることはないそうです。
 病害虫の発生や連作障害の発生はないとのことでした。


写真5 堆肥を入れているので土がやわらかい田圃

5.今後,堆肥利用を促進するために何が必要でしょうか?

 最近では,農家段階における堆肥化の技術も良くなっており,最近施肥している堆肥は,水分も高くなく,扱いやすく,臭いの少ないそうです。仁木さんは,「必ず,畜産農家がよい堆肥をつくれば,耕種で利用してもらえるのではないか。」と言われます。畜産経営で圃場還元が困難であれば,まずは良質堆肥の製造に心がけることが重要のように思われます。
 畜産農家において,ふん尿を厄介者扱いで嫌々ながら適当にふん尿を処理すると,その雑な扱いが堆肥の品質にあらわれてくるのではないでしょうか。ちょっとした比重調整,水分調整,切り返しをすることで,処理に困るふん尿から,土壌改良材としての堆肥に変わります。そうすれば,利用する耕種農家にとっても,扱いやすくなりますし,不快感もなくなります。ちょっとだけでも心をこめて堆肥化処理することが,お互いによい結果をもたらすのではないでしょうか。