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遊休農林地での放牧準備について

岡山県総合畜産センター 和牛改良部生産技術科 研究員 木曾田 繁

 県内の中山間地域において,耕作放棄地等の遊休農林地を活用した放牧が注目されています。荒廃が進みカヤ等の野草が繁茂した耕作放棄地等を人力で刈り払いすることは多大な労力と費用がかかり,過疎化と老齢化が進む中山間地域では大きな問題となっています。
 放牧活用することで,牛が採食可能な草は牛に刈り取らせることで手間と労力を格段に減らすことが出来ます。また,イノシシをはじめとする野生動物の温床となっている荒廃地を減らすことができます。
 それでは,放牧活用に際してどんな点に注意すればよいか,また,準備する事柄について若干紹介します。

*放牧牛・・放牧・電気牧柵に慣らしてから使いましょう。

 牛は本来草食動物であり,その辺に生えている草を自分で食べるのがあたりまえと思っていませんか?ところが,最近の牛は放牧の経験が無く,産まれてから牛舎の外に出ることが無く育つものも多くなっています。そうすると,牛は『餌は与えてもらうもの。』と思いこんでいます。このような牛がいきなり野草が生い茂ったところへ入れられてもただ戸惑うばかりで柵の間際でうろうろしているだけになります。放牧へ出す前に,まずは牛舎の周りの草のあるところへ繋いで草を食べることを教えてください。牛舎の近くで慣らすと次に電気牧柵を覚えさせましょう。

*電気牧柵の勉強・・無理矢理は禁物!自分で体得させましょう。

 電気牧柵を教えようとして牛を引っ張って無理矢理電気牧柵に鼻をあてるようなことはしないでください。牛が恐がり,かえって脱柵事故を招く場合があります。柵で囲まれた運動場や屋外に繋牧した牛の近くに短く電気牧柵を設置し,牛が自分からさわるのを待ちましょう。電気牧柵にジュースの空き缶やアルミホイルを短冊にしたものを着けると,針金でつるした空き缶やアルミホイルを牛は興味深く確かめようとします。すると電気ショックがくるので学習させるには有効な方法です。2〜3日すれば完全に覚えるので電気牧柵に触らなくなります。

写真1 電気放柵機

*電気牧柵の設置・・電気牧柵の設置の仕方次第で畦・法面は守れる。

 次は放牧場の準備です。電気牧柵は通常の恒久柵に比べ,軽量で設置が容易に出来るため便利です。遊休農地に電気牧柵を設置する場合,畦の法面等を崩さないように注意が必要です。牛は牧柵に沿って歩く習性があるため,法面の上側に沿って牧柵設置すると法面に牛道が形成され,そこから法面が崩れることがあります。法面を崩さないためには法面の下側に牧柵設置するか,法面の上側の場合は法面から1m以上離して牛の歩くスペースを確保してください。また,法面に垂直方向で電牧設置すると電牧に沿って法面を上がるため,そこから法面が崩れるので,法面に対しては平行に設置することが大切です。2枚の田畑を一緒に囲うときは,法面以外に牛の通れる道を確保してやると牛は道を通るため,法面が保護できます。法面を通るしかない場合は法面を垂直に上がるのではなく,緩やかに斜めに上がるように誘導柵を設置してください。

写真2 法面が崩れた例

*水飲み場の確保・・牛は水がなければ放牧できません。

 放牧地には必ず水を確保する必要があります。沢水,灌漑用水等がある場合はその水を利用できれば簡単ですが,水がない場合は営農タンク等を利用して水を運ぶか,天水(雨水)を利用する方法があります。いずれの場合も止水装置の付いた水槽やウオーターカップを使用し,かけ流しはしないようにしましょう。かけ流しは水槽付近の泥濘化の原因となります。

写真3 止水装置付き水槽

*その他の注意点

 以上で放牧の準備は完了です。牛を放して上手に草を利用させましょう。野草地の場合,目安は5反あたり3頭放牧で3週間程度です。また,放牧は必ず2頭以上で放牧してください。放牧の際,ピロの予防のため,ダニの駆虫剤(背線に沿ってかける薬が市販されています。)をかけて放牧しましょう。放牧してからも草の量によっては脱柵等の事故が考えられます。毎日必ず1度は観察するようにしてください。また,その際,濃厚飼料を500g程度給与することで野生化を防ぐことが出来ます。