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〔普及現場からの報告〕

検証:ヤギを利用した遊休農地の荒廃防止対策

井笠農業改良普及センター

“1,138ha,県内シェア20%”

 この数字は井笠地方振興局管内の荒廃農地面積である。さらに,管内の離農率も1995−2000年で14%と県内トップとなっている。
 このため井笠農業改良普及センターでは,昨年より「遊休農地の機能保全による地域づくり」に取り組み,そのひとつとして「ヤギを利用した遊休農地の荒廃防止」について検討した。

ヤギには自然と子供たちが集まった

◆畜 種
品種:日本ザーネン種
 粗放管理ができ,素人にも比較的飼育が簡単という理由で選考した。利用頭数は親子4頭とし,雄は去勢した。

◆荒廃農地と設備
 セイタカアワダチソウを中心とした荒廃農地へ放飼した。周囲は高さ約1mの鉄柵を張り巡らせ,簡易の雨よけ小屋を設置した。

◆管 理
 バケツによる飲水の管理を地権者等が実施。草の生えない冬期は,別管理とした。

◆成 果
 ・セイタカアワダチソウを中心とした雑草を1頭平均7.6kg/日食べ,雑草防除効果は非常に高かった。
 ・飼育管理は飲水以外必要なかった。
 ・幼稚園児らが集まり,動物との触れ合いや農業への理解を深める題材になった。

ヤギ放牧前(6/15) 放牧後20日(7/5) 放牧後40日(7/25)

◆課 題

1 牧 柵
 鉄柵により周囲を囲んだが,設置作業が大変であった。その他牧柵についても検討したが,電気牧柵は,脱柵による国道やJRへの影響や,子供らの感電が危惧され,また,ロープによる繋ぎはヤギに絡まることが多く断念した。
2 獣 害
 野犬による被害が出た。かみ殺されるのではなく,驚いて逃げた時に鉄柵に絡み怪我をしたものだった。
3 モチベーション
 地権者の農地保全意欲が向上しにくい。商工業への労力流失という地域性のためか,ヤギによる無料除草だけでは地権者の意欲向上には至らなかった。

◆今 後

1 システムづくり
 管理方法等に課題が残ったことから,本年度はヤギの放牧を地域または組織で行うシステムづくりについて検討している。
2 レンタカウ
 ヤギに変えて和牛の利用も検討中である。和牛のレンタル制度等の創設と組織づくりにより,荒廃農地の利用で和牛繁殖経営が成り立ち,地権者にいくらかの所得が発生すれば,今回課題となった地権者の農地保全意欲は向上するものと思われる。

◆おわりに

 荒廃農地の増加は,雑草の繁茂や病害虫の発生源となるだけでなく,農村の景観を損ね地域活力の消失につながっている。このため,荒廃農地復活への期待は大きく,地域づくりには欠かせない課題ともなっているが,決め手に欠けるのが現実だ。
 都市部では家庭菜園付き分譲地が話題になり,農村暮らしを紹介するテレビや雑誌が人気を集めるなど,農業が見直されている。新規就農希望者も相談件数が増加傾向にある中,農地の多面的機能を維持するだけでなく,関係機関との連携により,農地の流動化を進め利用増進を図るなど,地域の実情にあった多様な対策が必要と思われる。