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〔シリーズ〕堆肥利用の耕種農家を訪ねて(6)

川上郡川上町 三苫 明さん
堆肥のみを施肥してブドウの減農薬栽培

社団法人岡山県畜産協会 経営指導部 大村 昌治郎


写真1 50種類以上の品種のブドウを栽培する三苫 明さん

 岡山のブドウはピオーネ,マスカットが抜群の知名度を誇っていますが,今,売り出し中のブドウがあります。その名も「桃太郎ブドウ」。桃太郎といってもトマトではなく,まぎれもなくブドウなのです。「桃太郎ブドウ」の名で知られている瀬戸ジャイアンツは,新しい品種として期待されています。粒の形が桃に見えることから「桃太郎」の愛称で人気があります。
 色はマスカットのような緑色系です。瀬戸ジャイアンツの粒の形はプックリ膨らんでいて皮が非常に薄く,丸ごと食べられ,食感がポリポリサクサクとした心地よいものです。水分は少なめなので,「いちご大福」ならず「ぶどう大福」のあん(?)に向いているそうです。
 この桃太郎ですが,岡山県赤磐郡瀬戸町のぶどう育苗家花澤茂さんによって作られた,緑色系のぶどう「マスカット」と黒色系のぶどう「グザルカラー(ロシア)」の交配種です。正式登録名は「瀬戸ジャイアンツ」ですが,何分にも一部の野球ファンからはひどく敬遠される恐れも有り「桃太郎ブドウ」と命名されたというエピソードがあるそうです。
 今回は,川上郡川上町で,「桃太郎ブドウ」を含む50種類以上の品種のブドウに,十分な堆肥を使って栽培されている,みとまファームの三苫 明さんにお話をうかがいました。何しろ,この農園には,50種類(7〜8ヶ国)以上のブドウが栽培されていることに驚かされます。いろいろな色と形が楽しめるということで,年間に4,000〜5,000人は来園しているそうです。栽培されているブドウは,すべて生食用のブドウで,ワイン用の品種は栽培していないそうです。
 観光農園として,みとまファームには遠方では京都,高知,熊本からやってこられるそうです。また,来園された人にブドウを販売していますが,その他にも,ゆうパックを使って通信販売を行っています。その場合,1箱に1種類のみでたくさんの量を送るよりも,たくさんの種類を箱につめて送付する方が,消費者に喜ばれると三苫さんは言われます。

1.栽培作目と面積

 みとまファームでは,明さん本人と妻の2人で80aのブドウ畑を管理しています。ブドウの品種は主要なものでは,ピオーネ,瀬戸ジャイアンツ,マスカットデュークアモーレがあげられます。他にも,品種名がないため,孫の名前をつけた品種など,合わせて50種類以上のブドウが栽培されています。
 ブドウは,石や砂地でも育ち,乾燥地帯でも栽培が可能なため,多雨は病気の発生や甘みやうまみが落ちてきます。そのため,ビニールの屋根で雨を避けています。土壌に雨があたらないので,雨水による養分の流出がないため,土壌中の養分が過剰にならないよう心がけしなければなりません。
 栽培面積は80aですが,その1/3がピオーネで,2/3にその他の品種を植えています。収穫時期は8月中旬から11月中旬まで,品種が50種類以上あるために幅広い収穫時期となっています。


写真2 雨を避けるためのビニールの屋根

2.堆肥の施用状況

 三苫さんは,30年以上前から,野菜や果樹を栽培するために,牛ふんや鶏ふんを堆肥として利用されてきました。堆肥という言葉が流行する前から,有機物として利用してきたそうです。ブドウの栽培に堆肥を投入しているので,化成肥料を一切利用していません。
 ブドウは痩せ地に堪える作物なので,多肥による失敗は避けなければなりません。そのため,ブドウ栽培に,堆肥を用いるときには,窒素,カリウム,ECの濃度に気をつけながら堆肥を施肥しているそうです。
 三苫さんが調製した堆肥を施肥すると,土壌中のカリウム,ECは高めになるが,窒素は高くならないそうです。土壌分析をして,土壌中のカリウム,ECが高すぎる場合は,堆肥の施肥量を減らしています。
 堆肥の施肥時期は,ブドウを収穫し終わった11月から12月に行います。施肥方法は,クローラ付き運搬車で堆肥を運搬して畑の表面に散布します。それを,ミミズやモグラが全面に広げてくれるそうです。枝があるところには根が張っているため,全面的に散布するそうです。堆肥の施肥量は,10aあたり10トンです。


写真3 堆肥を施肥したブドウ畑

写真4 10aあたり堆肥を10t施肥している畑の土の様子

3.現在,利用している堆肥について

 ブドウ畑に散布する堆肥は,1年間かけて三苫さんが堆積発酵させて調製します。その堆肥は,種堆肥として川上町堆肥供給センターから堆肥を購入し,肉用牛肥育経営からオガクズ混合の発酵途中の家畜ふんを混ぜて,堆肥置き場で1年間堆積発酵させています。その原料として,川上町堆肥供給センターから1/3の量,町内の肉用牛肥育経営から2/3の量を堆肥置き場に堆積させて,次の年に施肥する堆肥に仕上げます。
 堆肥を利用している川上町堆肥供給センターは,平成3年度に設置され,肉用牛と養鶏のふん尿を原料としています。ふん尿は水分70%に調整されて搬入され,発酵槽で約2ヶ月間撹拌発酵が行われます。その後,堆積施設で30〜40日間,ホイルローダーで切り返しを2回行ない,堆積発酵されたものが利用されています。


写真5 川上町堆肥供給センターの直線開放型撹拌式発酵槽

4.堆肥の施用効果について


写真6 堆肥を使うと化成肥料の使用時より葉色が薄くなる

 三苫さんの農場の畑はもともと赤土だそうですが,堆肥を施肥することで,土の色が,赤色から黒色になるそうです。また,土が団粒構造になり,保水性などの物理性の改善もあり,生物の生息環境としても良好になるので,ミミズ,モグラなどの生物も多く見られるそうです。
 また,来園した人にも「土がやわらかい」と喜ばれるくらい,土が軟らかいため,裸足であそぶ子供たちもいるそうです。これは,堆肥を投入することで,団粒化した土は,土中の空気量を増加させ,土壌が膨軟化した結果だと考えられます。
 堆肥を入れると土壌のpHが上がるようで,三苫さんの畑ではpH7.2ぐらいになります。ブドウは,やや酸性〜中性土壌のpH6.7〜6.8が最適だそうですが,pH7.2でも問題はないそうです。
 みとまファームでは,堆肥だけを施肥していますが,化成肥料だけを施肥している畑に比べ,葉の色が薄く,黄緑色のようで,葉の大きさも小さめになるそうです。ブドウは耐水性があり,根の酸素要求度も小さいといえ,土中の酸素が不足すると,収量や品質が低下すると言われています。三苫さんの畑では,土が軟らかく土壌中の空気層もしっかりあるため,ブドウの収量は多くなるそうです。さらに通気性が向上し,ブドウの木が力をもつため,ブドウの色も良くなり,味もよくなるそ三苫さんは言われます。
 堆肥を施肥することで,減農薬栽培が可能になり,農薬散布は年間に5回しか行わずにすむそうです。通常のブドウの栽培において,1年間に農薬散布は十数回程度行われますが,三苫さんは農薬散布回数を5回に減らし,農薬の濃度も薄くしているそうです。しかも,堆肥を施肥しても病気の発生は通常の栽培とかわらないそうです。また,害虫も問題にならないそうです。ただし,畑に堆肥を施肥しているので,ミミズを食べにモグラが来るそうですが,根菜類野菜のように作物に被害はないそうです。
 堆肥の連年施肥による連作障害はないそうです。20年以上連年施用の畑もあります。堆肥を施肥しているので,化成肥料は施肥していません。ブドウは微量要素欠乏症のでやすい果樹と言われており,防止のためには堆肥の施肥とpH調節が欠かせないそうです。
 堆肥を施肥するので,通常の栽培にくらべ1.5倍の収量があると言われます。10aあたり2トン以下の畑はないそうで,10aあたり4トンも収穫できる畑もあるそうです。このように,三苫さんのところでは,堆肥の施肥で多収量になっています。多収量の上,さらに,生産されたブドウの味は良いそうです。


写真7 たわわに実った生育中のブドウ

5.今後,堆肥利用を促進するために何が必要でしょうか?

 これまで,三苫さんは,古くから堆肥を利用した栽培を続けていますが,農協や普及センターの指導員から堆肥の利用方法について指導してもらったことはないので,自分なりに堆肥の施肥方法を確立するしかなかったそうです。堆肥の良さを十分に認識されている三苫さんは,20年以上も堆肥を連年施用できるほど,堆肥を利用し続けています。
 三苫さんは,「農協の営農指導によって,農家が栽培した作物を,農協へ出荷する場合は,農協の営農指導で堆肥の利用をうたっていない限り,堆肥の利用促進は難しいのではないか。」と言われます。堆肥の利用を促進するためには,農協の営農指導や普及員による指導において,堆肥を利用することの優位性が,耕種農家や指導者に理解されなければなりません。
 今回紹介しました三苫さんの事例では,化成肥料を使わないで,堆肥のみで栽培されています。その結果,農薬散布回数も少なくなり,さらに多収につながっている利点がうかがわれます。このような事例を参考に,堆肥の利用が多くなることを期待しています。