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〔技術のページ〕

哺育牛の健康管理について

高梁家畜保健衛生所 橋田 明彦

 哺育牛の健康管理については,酪農家,肉用牛農家ともに気配りする事項の一つでしょう。ちょっとしたことで病気になったり,悪ければ死亡するのがこの時期です。
 そこで高梁家保管内における哺育牛の疾病・死亡事故低減の取り組みについて紹介します。
 場所は新見市井倉地区。ここは同市千屋地区で生まれた子牛を約8ヶ月間受託する,千屋牛の哺育分担を行っている地区です(詳細は8月号p6,「普及現場からの報告」を参照してください)。ここでは阿新農業改良普及センターと共同で1ヶ月に1回,5戸の農家について子牛の発育状況を調査しています。体重計を用いて体重の測定及び体高を測り(写真1),各子牛の発育曲線の作成や,1日当たりの増体量を調査し,農家毎,個体毎に比較検討しています。今後さらにデータを蓄積することで飼養管理や系統間の差異が判明するものと思われ,活用が期待されます。


写真1 体重及び体高の測定

 衛生面においては,哺育農家で生まれた子牛または生後間もない導入牛について初乳摂取量を中心とした栄養状態を把握するため血液検査を実施しています。主な検査項目は血清総蛋白(Total Protein:TP)及び亜硫酸ナトリウム混濁試験(Sodium Sulfate Turbidity Test:SSTT)です。特に生後間もない子牛の血中蛋白質濃度は,主に初乳の摂取状況を反映しています。TPが5.0g/qより低いと不十分とされ,摂取量もしくは摂取時期に問題があると考えられます。これと併行してSSTTを行いますが,これは亜硫酸ナトリウム溶液と子牛の血清を19:1の割合で混ぜることにより,混濁度を5段階評価で判定するものです。初乳を十分摂取しているものほど混濁度が高くなります。この検査自体かなり前から現場で行われているものですが,安価で簡便にできるため,今でも活用されています。
 新生子牛はもともと病原菌などに対する抵抗力,すなわち免疫が弱い状態にあります。これは人間と異なり,胎子の時に抗体(免疫に関連するタンパク質の一つ)を受けられないからです。よって母牛の初乳を摂取することにより初めて抗体を獲得します。初乳摂取量の少ないものは免疫力が弱く,下痢や肺炎を起こしやすくなります。実際に検査してみると初乳摂取量の少ないものはこれらの検査で判明し,さらにその後何らかの疾病を観ることが多い傾向にあります。今では常識になっていますが,生後間もない子牛にとっては初乳を適切に摂取することが最も重要なことの一つです。これによりその後,子牛が健康で順調に育っていくかが決まると言っても過言ではありません。井倉地区では生後30分ぐらいに凍結初乳を1リットル与え,その後母牛と3日間同居させ自由に哺乳させる方式をとっています。4日目以降は親子分離し,カーフハッチで個別に飼養していきます。
 また,調査農場では過去にコクシジウムによる下痢が見られたことから糞便検査を実施し,その保有状況を調べています。今までのところ保有している個体が散見されるものの,発症するものは認められません。これは石灰を用いた定期的な消毒を実施していることによるものと思われます。以上のことも含め,昨年度より農家台帳及び哺育牛飼養管理チェック表を作成し,環境面や給餌面などの問題がないか点検しています。
 調査後は農家の方々と懇談し,情報交換やミニ研修会を行っています(写真2)。主に家畜市場における子牛の種雄牛別価格や出荷体重,日齢などを始め,地区内外の農場の飼養管理方法などを話し合ったり,調査農家の問題を指摘する中で,さらなる向上を目指しています。


写真2 懇談会風景