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〔技術のページ〕

高品質牛肉の生産を目指して

岡山県総合畜産センター 和牛改良部技師 塩田 鉄朗

 肥育経営において「ビタミンAコントロール(以下VAコントロール)」は一般的なこととなっています。しかし,現実的には「VAコントロール」を正確に理解していないケースや極端にVAを低レベルに維持するため,「喰い止まり」や「関節炎」の発生,或いは「筋肉水腫(ズル)」の発生,ひどい場合には死亡するケースも珍しいことではありません。
 「VAコントロール」を正しく理解し,肉質の向上に努めることが肝要です。

(1) 各ステージ毎の理想的な血液中ビタミンA濃度

 ① 導入時から肥育前期終了時(概ね12ヶ月齢まで)
 この時期は,骨,筋肉を充分に発育させる時期であり,VAを制限する必要はありません。目安として血液中VA濃度は最低80IU/dlは必要であり,100~120U/dlが理想です。
 ② 肥育中期(13ヶ月齢~20ヶ月齢頃まで)
 この時期は,脂肪前駆細胞が脂肪細胞へ分化し「サシ」が入る重要な時期です。VAは,脂肪前駆細胞から脂肪細胞への分化を抑制する作用があることから,血液中VA濃度を低レベルに保つ必要があるのです。一般的に使用されている「中後期飼料」やワラ類にはほとんどVAが含まれていないため,普通の飼養状況で血液中VA濃度は急激に低下します。
 理想的な血液中VA濃度は17~20ヶ月齢で30~50IU/dl程度です。30IU/dlを下回ると欠乏症の発生など非常に危険な状態であるため,後述の処置が必要です。
 ③ 仕上げ期(21ヶ月齢から出荷)
 この時期は脂肪交雑への影響がほとんど少ないことから50IU/dl前後に保ち,逆にVA欠乏症を発生させないことが重要です。

(2) 血液中VA濃度の測定時期

 血液中VA濃度の測定は,過度に行うと牛に余分なストレスを与えることとなるので,必要最小限にどどめることが重要です。
 以下に代表的なプログラムを示しました。              

(3) VAが欠乏した場合の処置

 13~21ヶ月齢の間に血液中VA濃度が30IU/dlを下回った場合処置が必要です。
 下記の図は,VA製剤の投与効果を示したものです。VA製剤を250,000IU投与した場合と125,000IU投与(いずれも経口投与)した場合のついて示しています。投与後1ヶ月後には血液中VA濃度が250,000IU投与では約40IU/dl,125,000IU投与では約20IU/dl上昇し,いずれの場合も投与後2ヶ月後には,投与前と同じレベルまで低下することを示しています。

 このことから,30IU/dlを下回った場合2ヶ月間隔でビタミン製剤を125,000IU経口投与することで,安全にVAコントロールすることができます。
 なお,市販のVA製剤は,個々によりVA濃度が異なるので,濃度を確認して投与してください。
 以上VAコントロールの概要を述べてきましたが,時期(特に夏場は冬場に比べVAの消耗が激しい。)や個体によって状況が異なるため,日常の観察が重要となります。
 VAコントロールを上手に取り入れて,肉質の向上に努めていただきたいと思います。