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〔地域情報〕

広域利用の進む矢掛町育成牧場

井笠地方振興局農林水産事業部畜産係

 近年,県内の酪農経営は多頭化しており,今後も労力やふん尿処理負担の軽減からも育成部門の外部化の希望は多いと思われます。また,県外導入牛がヨーネ病等に侵されている危険性が大きいことから,伝染病の防疫対策のためにも後継牛の県内育成をすすめる必要があり,今後とも酪農振興を図る上で,公共牧場が大きな役割を担っていることは言うまでもありません。
 しかし,昭和47年に設置された美星町公共牧場は,近年,町内酪農家戸数の減少等により預託頭数が大きく減少したため,残念ながら平成15年3月31日をもって牧場を閉鎖しました。
 幸い一部の草地と機械については,平成6年に美星町内の酪農家により組織された美星町公社営草地利用組合(組合長:川上泰介さん)が,引き続き活用して自給飼料の増産を図ることになりましたが,預託業務は廃止されました。
 このことにより,県南で唯一の公共牧場となった矢掛町育成牧場は,すでに昨年度,美星町公共牧場利用者から34頭を受け入れるなど,公共牧場再編に向けた広域的な取組みを積極的に進めています。
 牧場の運営は,矢掛町の正職員2名(農林課職員併任,牧場長及び主任技師)と,臨時職員5名で構成する(社)矢掛町畜産公社が行っており,平成15年10月1日現在では,乳牛214頭(預託牛174頭,買取牛40頭),肉用牛68頭(買取牛),計282頭が飼養されています。
 牧場は,美星町公共牧場と同じく昭和47年に設置されており,施設・機械の老朽化や草地の荒廃等の問題がありますが,矢掛町をはじめ,県や国,地方競馬全国協会等からの補助事業の活用により,フェンスやスタンチョンの整備,電機牧柵や消毒機,牧草収穫機等の導入,草地の更新,ダニ駆除等の衛生対策等を積極的に実施し,酪農家の皆様に満足していただける優良牛の育成と経営の改善に努めています。
 しかし別表のとおり,預託農家は邑久郡から笠岡市まで県南の広範囲に渡り,昨年度の利用は戸数で25戸,頭数で154頭ですが,そのうち矢掛町内は4戸(16%)で17頭(11%)しか占めていません。このように,町外からの預託が大半を占めていることから,牧場用地の賃借料や職員の人件費など,牧場運営への町費の投入については町内から厳しい意見が出されています。

(別表)平成15年度 矢掛町育成牧場の利用状況

 このため,矢掛町では牧場を住民の憩いの場としても位置付けて,花木の植栽,有機野菜の栽培を行うほか,野鳥観察の小径や炭焼き窯等を整備し,小中高校生の見学や体験学習の受け入れを行っています。また,牧場では町中央を流れる小田川の河川敷を活用した牧草生産を行い,自給飼料の増産にあわせて景観保全を図るなど,多面的な貢献を積極的に進め,畜産農家のみならず地域住民にとっても有意義な公共牧場として,その存在意義を町民にアピールしています。


牧場の法面に活用した炭焼き窯

 しかしながら,地元の町のみに運営努力を求めることには限度があります。今後,公共牧場の維持・発展のためには,酪農家や関係機関も自らの問題として,公共牧場の利用促進とより一層の支援を行うことが求められています。