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〔技術のページ〕

「保定が命!ダチョウの採血〜ポイントは度胸と重量〜」

真庭家畜保健衛生所

 「こいつら鳥じゃねえ!恐竜だ!!」と叫んだのは,我が家保職員の記念すべきダチョウの採血初日のこと。確かに時速60qにもおよぶという地上最速な鳥が駆け回るその脚をみると,映画「ジュラシック・パーク」を彷彿とさせました。
 そもそも,我々がダチョウの採血に至った経緯とは,県内でニューカッスル病(ND)が発生した平成14年のこと。管内でダチョウを飼養している牧場のオーナーが「ダチョウもワクチン打たねば」の一言ではじまりました。
 ダチョウ(駝鳥)は走鳥類で単胃ですが,草食動物です。このため,粗飼料を中心とした飼育ができるため,低コスト生産が可能と言われており,わが国では1998年以降,商業用ダチョウとして急激に増加し,2002年には10,000羽以上が全国で飼養されています。肉はダイエット食品に最適な低脂肪・低カロリーで,皮はハンドバッグや財布に,羽は静電気が起きにくくパソコンなどのホコリ払いに利用できるなど,利用価値の高いダチョウは,有望な産業として期待されています。
 しかしながら,ダチョウは行政上,家きんには分類されておらず,飼養に対する法的規制もないため,衛生管理・防疫体制などは自己責任において行われています。これまでに,鶏に感染する病原体のほとんどはダチョウに感染することが知られており,また,ダチョウでのND発生も多く報告されています。ダチョウの輸出国である南アフリカでは,NDウイルスの伝播の危険性を減少させるため,現在,輸出肉用としてと場へ出荷するダチョウ総てに,出荷30日前から6ヶ月以内のワクチン接種が義務づけられています(表)。ということで,話をダチョウの採血に戻しましょう。

 まずダチョウに目隠しをするため,布袋を頭部にかぶせます。ここでは,事務用腕抜きを使いましたが,これがぴったりです。方法は,腕抜きを着けた人がダチョウに近づき,その手でくちばしを掴むやいなや,もう一方の手で素速く腕抜きをダチョウの頭部にかぶせます。眼が見えなくなったダチョウはこれで少々落ち着きます。こうやって書くと簡単なように思えますが,これが大変。ダチョウはパニックになって牧場を縦横無尽に走り回り,仲間のダチョウに激突するは,牧柵や家保職員に向かって突進してくるはで,ダチョウを捕まえる前に,けが人がでるのではと思うほどです。結局,牧柵の隅にダチョウを追い込み,けが人もなく,腕抜きをダチョウの頭部にかぶせることに成功しました(写真1,2)。


写真1

写真2

 次に保定です。この際,絶対にダチョウの前に出てはいけません。ダチョウの前蹴りをくらうと,致命傷になることもあるからです。ダチョウが立ったままでも保定はできないことはないのですが,座らせた方が安定します。重量級の家保職員2〜3人がダチョウの背中に乗ると,ダチョウは座り込みます。軽量級だと,背中に乗ったままダチョウが走り出し,投げ出されることがあるので危険です。現に,我が家保職員1人が犠牲になっています。ダチョウを座らせたら,その長い首がくねくね動かないように1人が頭部を保定します。この際,決してくちばしを持ってはいけません。パニックになって場内を走り回り,息の荒くなったダチョウは鼻孔だけで呼吸できず,開口呼吸もします。くちばしを持ってしまったら呼吸困難になって危険です。こうしてダチョウをしっかり保定したら,術者は頸静脈より採血します(写真3)。


写真3

 現在,家保ではダチョウの採血を定期的に実施し,ワクチン効果の確認と他の感染症についての調査を行っています。今ではダチョウは,家保職員の青いツナギをみただけで,パニックになりますが,冒頭のようにダチョウを恐れていた職員の方は,すっかり慣れてしまいました。
 ダチョウの感染症に関する情報や免疫応答に関する情報は,世界的にも少なく,ワクチン開発も行われていません。このことから,適切な防疫対策は確立されておらず,わが国も含め,今後のデータの蓄積が重要とされています。こういったことからも,我が家保では,ダチョウの感染症について今後も検討を続けていく予定です。