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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所蒜山支所  福原 稔

 真庭家畜診療所蒜山支所に赴任して8ヶ月が過ぎようとしている。晴れの日は伯耆大山を望み,悪天候の日も負けず日々往診しているが,日中に犬挟峠より降りてくる濃霧や朝日を浴び霧に浮かぶ蒜山三座などの幻想的な風景が,まるで観光に来ているのではないかと思わせてくれる。
 担当区域は八束村・中和村で,酪農戸数は31戸。ジャージー種が大部分を占め,立地条件にも恵まれ,後継者も多数育っている。酪農家は,観光地という事もあり祝休日に堆肥散布を避けるなど,地域との共存・共栄を図っている。
 7時半に私の1日は始まる。細菌感受性検査の植替えから始まり,往診依頼を受ける。1日に大体5〜12戸の診療を終え,事務所に帰還。血液検査・カルテの整理・感受性検査の植付けを済ませ,帰宅。または,夜間当番にはいる。早期治療を望む農家が多いためか夜間診療の件数は多い。月に一度の宿日直もある。
 この8ヶ月を振り返ると,様々なことがあった。特に印象に残った日の事を書いてみる。
 7月26日,3度目の日直を迎えていた。早朝より,診療依頼の電話が鳴り続く。片手にパンを持ち,運転しながら食べなければならないほどの忙しさだ。点滴治療する牛が多く,かなりの時間を要する。やっと事務所に帰ると午後8時。しかし,カルテ整理中にまた新たな診療が入り往診に出掛ける。その日は最終的に23戸・31頭の診療をし,宿舎に帰ったのは午後10時半であった。
 27日,日直2日目。早朝より往診依頼が入る。昨日と同様,休む暇もなく往診に走り回る。この日22戸・24頭の診療をこなし,事務所に帰ったのは昨日と同様午後8時。カルテの整理をし終え,一息入れながら初めて蒜山支所に挨拶に来た時の事を思い出した。前任者曰く,「蒜山支所では,日直で十数件の診療は当り前。15件で少し多かったという程度。20件でやっとよく頑張ったと言われるほど大変だ。」との事だった。今回の日直で初めて,その大変さを実感した。
 次の朝,ようやく日直が終了。よく体がもったと思う程大変な2日間であった。
 10月25日,朝から7戸の診療を終え事務所に帰っていた。午後4時,昨日分娩した牛が起立不能と往診依頼が入る。
 ジャージー種,体温37.6℃,心拍数不明。皮温冷感,意識混濁,起立不能等の症状を認め乳熱と診断。牛の頭を保定し,点滴によりCa剤を注入する。牛の体全体が震え,排尿が始まり,薬の効果が現れ始めた。しかし,しばらくして異常に気付く。呼吸が細弱となり,目が閉じ,首の力が抜けた。すぐ点滴を中止し,保定を解く。頭はドンと地面に叩き付けられた。呼吸停止。急いで蘇生に入る。(どうして?なぜ?)様々な考えが頭を過ぎった。牛の胸をマッサージしながら顔を見る。何の反応もない。口の中に手を入れ,頭を振ってみる。まだ反応がない。(もうダメか。)再度,マッサージしてみる。すると一瞬まぶたが動いた。(見間違いか。)さらに強くマッサージを続ける。ついに牛が目を開き,頭を持ち上げた。(やったぞ!)ホッと胸を撫で下ろす。1分前後の事が十数分にも感じられた。牛が落ち着き,治療を再開。患畜は後日,元気に起立し回復した。
 ジャージー種は,乳熱・低Ca血症が頻繁に発症し,Ca剤の反応は良好で治癒率も高い。しかし,食欲が回復せず,皮温の上昇が見られない場合,数日で突然死する事もある。血液検査を含め,今後治療法の検討を考えて行きたい。