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〔共済連便り〕

家畜診療日誌

津山家畜診療所  犬間 一郎

 臨床現場で我々は,農家の人に時々言われることがあります。「動物は何も言わんのに何処が悪いのか,獣医さんはようわかるなー」その時私はこう応えます。「人間はどこどこが痛い,気持ちが悪い,そこは違う,などと文句を言うし,時々ウソを言うことがあるよ。」「その点,動物はウソを言わんけーなぁ」そう言うと畜主は納得します。
 ある名獣医師によると,牛の顔を見たらどこが悪いのか,何を言おうとしているのかが分かるらしい?私も獣医師となり二十数年を経たが,未だその域に達していません。
 先日,ある雑誌に酪農コンサルタントの先生が「牛舎内で飼われている牛たちは畜主に常に何かを訴えている。しかし,酪農家は毎日同じ牛舎で同じ牛を見ながら仕事をしているので,牛や牛舎内環境の変化に気がつかない場合が多い。また「異常」なものを見続けると,それがいつの間にか「正常」に見えてくる」と書いておられた。なるほど,そういう農家へ第三者(我々獣医師等)が行き,その家の牛が何を訴えているのか,あるいは何を望んでいるのかを指摘し,改善してゆくのが仕事です。では,いったい牛は何を訴えているのか,いくつかあげて見ると,おそらく次ぎのような事でしょう。

1 四肢の関節が腫れて痛い。蹄が伸びすぎて起立動作がままならない。
2 きれいで,新鮮な水が十分に飲めない。
3 換気が悪く,牛舎内にアンモニアが充満し,気持ちが悪い。
4 その他いろいろ

 このことは最近頻繁に言われているカウ・コンフォート(安楽性)そのものです。
 この訴えを叶えてやる事により,牛の生産効率はもっと向上することでしょう。
 私が最近特に注目していることは,きれいで,新鮮な水が十分に飲めているかということです。牛にとっての水とは,健康と生産性に非常に重要なものです。
 牛乳の85%は水分で,乳牛は乳を生産するために毎日多量の水を飲みます。例えば泌乳量35s/日の牛の通常時の飲水量は114〜136リットル/日で,さらに暑熱時には1.2〜2倍に増加し,200リットル/日以上になるといわれています。
 この夏,津山家畜診療所管内の給水器の状況を調査した結果,水量(水圧)が少なく,水質もあまり良いものではありませんでした。生命の源,牛乳の源である水はあまりにもおろそかにされているようです。
 日常,我々が患畜に対し診療を行うとき,必ず個体の全貌を観察します。被毛の艶,汚れ,体形,ボデイコンデション,第一胃の充満度など。また,それに合わせ牛舎内環境をよく見て,患畜は何を訴えているか見極め,「異常」なものは「異常」なものとして指摘し,家畜の健康と生産性向上に努めてゆこうと思いながら診療しているこのごろです。