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〔普及の現場から〕

千屋牛復興にむけての取り組み PartU

阿新農業改良普及センター 森山 靖成

 阿新農業改良普及センター管内の和牛繁殖頭数は飼育者の高齢化や担い手不足などから,年々減少し,今では10年前の約半数の1,006頭が飼育されています。
 農家と関係者はこれ以上の飼育頭数減少に危機感を持つなかで,普及センターとしても,今年度,総合プロジェクト課題「こだわり千屋牛づくり」として,ひとづくりとこだわり飼育技術の普及について取り組み,和牛王国の復興をめざしています。
 そこで,最近のトピックスを紹介します。

1 ひとづくりへの取り組み

 将来,千屋牛生産の中核的な飼育農家になり得る若い世代の組織化を図り,ネットワークを強化することで,阿新地域全体の千屋牛生産のレベルアップをねらっています。
 30歳から40歳代の千屋牛飼育農家で組織する「阿新地域青年和牛研究会(会長:伐明昭治 会員13名」では課題解決活動や先進地調査研究等を行っています。また,肉用牛の改良と肥育技術向上のために,研究会員が肥育・出荷した牛での枝肉共励会を県営食肉地方卸売市場で開催しています。
 今年度,市町合併を控えていることもあり,今まで以上に連携を強化し,牛舎施設の簡易な改善による省力化(こだわり)技術の事例を研究し,資料集を作成する取り組みが始まっています。

2 こだわり飼育技術への取り組み

 (1) 放牧技術の普及

   遊休農地や転作田等での簡易移動型電気牧柵を活用した省力管理飼育による低コスト生産を推進します。従来,有刺鉄線等で放牧場を囲っていましたが,平成13年以降電気牧柵の需要が多くなり,3年間で23ゥ分の電気牧柵が普及しています。
   放牧は足腰の強い,健康な牛づくりにはもってこいの技術ですが,脱柵,流産,ダニによる貧血など常に危険が伴います。牛の観察を綿密にし,異常牛の早期発見,早期対応が欠かせません。
   新見市では千屋牛遊休農地放牧利用推進協議会を立ち上げ,今年度,新規の事業を活用し,耕種農家と連携した千屋牛放牧を実施します。市内の3カ所の耕作放棄田に,電気牧柵,飲水施設,日除け施設等を設置し,放牧を行います。この取り組みは,市農業委員会の協力を得たうえで,耕種農家と畜産農家が連携して実施します。
   まだまだ,小面積への放牧で,耕種農家や地域へのパフォーマンス的要素が強いですが,各種の手段をもって放牧の推進にあたります。

 (2) 超早期母子分離飼育技術と千屋牛哺育分担システム

   管内の8戸の経営体は,生まれた子牛を分娩後1〜3日で親牛から分離し,カーフハッチ等で超早期母子分離飼育(人工ほ育)を実施しています。中には比較的小規模な繁殖農家がいますが,哺育牛の良好な成育にともなう市場評価,母牛の分娩間隔改善等の実績を高く評価しています。母子同居の牛房を繋ぎ方式に変更するなど,母子を分離することによる飼育方法の変更で,規模拡大がすすみつつあります。あと2戸の新規技術導入農家を育成したいと考えています。
   昨年度から,新見市内で,本格的に稼働した千屋牛哺育分担システムの運用が2年目を迎えるにあたって,平成15年度の母子分離飼育子牛の成育成績を取りまとめました。
   市内井倉地区5戸(飼育規模 5〜25頭)の肉用牛農家で人工哺育を行った103頭(内22頭が阿新北部地区からの受託牛)について,月別の平均1日あたり増体重(DG)の比較を行いました。 
   人工哺育牛の出荷平均DGは去勢で1.07s,雌で0.96sと県平均(去勢1.05s,雌0.91s)を上回る良好な成育で,月別のDGの推移をみると,季節の変わり目の9月及び1,2月にDGの減少傾向がみられ,なかでも,雌の減少率が大きい結果となりました。
   結果をもとに,飼育管理面では雄よりも雌の方に重点をおくことと,春先からの防暑対策と厳寒期の防寒対策等での飼育管理(下痢対策)に重点をおくように指導を行っています。

3 新しい動き

 阿新地域は元来,和牛子牛生産地域としての歴史と伝統があります。現在,企業的な肥育経営体はJA阿新と哲多和牛牧場があり,和牛子牛市場では地域の優良子牛を積極的に購入するなど,買い支え的な存在でもあります。
 牛トレーサビリティ制度が確立した今では,地産地消,安全安心の意味からも,地域内繁殖肥育一貫経営がブランド化の第一歩となります。
 繁殖牛の減少は地域内一貫経営と相反しますので,今までの固定観念にとらわれない千屋牛繁殖経営体の設立を目指した取り組みが始まります。