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〔共済連だより〕

家畜診療日誌

真庭家畜診療所  西原 直

 酷暑となった今年の夏,暑熱対策は十分だったでしょうか。そして今,この夏を乗り切った牛たちに対するケアは行われているでしょうか。先を予見する事は困難な事ですが,例年暑熱対策の重要性がさけばれている中でもし現在,事故が多発している農家があるとすれば,それは不十分だったと言えるのかも知れません。
 真庭家畜診療所に赴任して1年半,当初は県北と言うことで特に寒冷期の事故が懸念されましたが,今となればそれは先入観そのものであり不十分な知識がゆえの予見でありました。乳牛,和牛半々といった診療の中で,特に感じた事は,和牛農家での事故に対する防衛手段が,想像以上に高く感心させられたと言うものでした。そこで,ある1和牛繁殖農家の事例を紹介する事にします。
 飼育形態,飼養条件は個々の農家でそれぞれ異なるわけですが,病気の発生はひとつの統一性を持った形として現れるのが現実です。
 この農家は以前から子牛の下痢,特に白痢の発生が多く,死廃事故率も高かったことから○○予防,○○対策と色々試みて見たものの現状から抜け出す事が難しく,一時は廃業も考たそうです。
 画一的な予防対策だけでは解決しない事から考えついたのが,乳酸菌を使用した白痢予防でした。これを日常的に摂取する事ができれば,お腹の中のいわゆる善玉菌を増やす事ができ,白痢予防につながると考えついたものでした。
 この農家の飼養形態は,多頭飼育のため,使用されている粗飼料はロ−ルサイレージが主体で,あと購入乾草を補足すると言うものでした。この主体となるロールサイレージを作る段階で乳酸発酵する事に着目し,より品質の良いものを作ろうと,ラップする直前に市販されている乳酸菌(ヤクルト菌=L・カゼイ・シロタ株)を添加し,完成した自給飼料を母牛と,餌を食べ始めた子牛に給与す事で,徐々に子牛の消化器病・特に白痢の発生が減少して,今では白痢の発生予防にほぼ成功したと話しています。
 現在では成牛30頭,子牛15頭あまりを飼育していますが,昨年の白痢による死廃,病傷事故はともに0件,そして今年度も今のところ発生していないと言うのが現状です。
 この事例は,まさに画一的な予防対策だけにとらわれず,自らの飼育,飼養形態と病気の発生状況から,経験を生かした成功例と言えるものでしょう。
 この事例を今後の家畜診療に活かし,形にはまった予防対策だけでなく,戸々の農家に適した予防対策を見つけ出し,実践する事で,更なる事故低減に努めたいと思っています。