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BSEの精度の高い検査方法の確立を望む

財団法人中国四国酪農大学校 校長 古好 秀男

 牛海綿状脳症(BSE)に感染し発症した牛を原材料に肉骨粉を製造し,動物性蛋白質資源として牛に給与することによって,新たな牛がBSEに感染することが,一般的に知られています。BSEの異常プリオンが含まれている肉骨粉を食べた牛は,その時点からBSEに感染したことは言うまでもありません。防疫学的な常識として,家畜伝染病の発生のメカニズムは,感染しても,その病気が症状として発症していない状態,又は検査で原因を証明しない限りは,保菌畜,不顕在性感染,潜伏期と称し,防疫学的な見地からすれば,それなりの疑いがある家畜は,病気が判明するまでは疑似患畜として隔離監察することが,家畜伝染病予防法のうえからも義務づけられている防疫処置であります。
 現在のBSEの検査方法は月齢,給与期間,採材部位等,今だに解明されていない部分が余りにも多いので,今後は早急に若令牛を含め生体検査が出来る検査方法の確立が最大の課題となっています。
 特に異常プリオンが多く蓄積している部位を取り除けば,後は問題がない様に表現されていますが,BSEの異常プリオンは神経細胞に親和性があると云われています。動物の体内の神経細胞は全身に張りめぐらされているので,万が一のことを考えて,危険部位と云われている一部の臓器を取り除いたからと云って,それ以外の神経細胞にはBSEが関係しないとは断言することは出来ないのです。感染した牛については,むしろ全神経細胞にBSEの異常プリオンが感染していると見るべきでしょう。
 正常プリオンに対して,BSEの異常プリオンの感染速度が遅いために,異常プリオンが火種となって徐々に増殖して発症し,検査可能材料となる訳ですから,どの時期に於いても感染能力があると考えられるのが一般的で,月齢が若いからと云って感染しないとは云い切れません。異常プリオンの蓄積が少ないものについては,現在検査能力が無いからと云って,何ヶ月令から食用に供するかが問題ではなくて,食の安全,安心を考えるならば,食用に供する総ての牛の検査を実施し,少なくとも陰性であるものだけを食用として供給することが,食品安全基本法の基本でなければならないと思います。
 皮膚に物が触れても,すぐ判る程の敏感な神経細胞であっても,皮膚の中からBSEを検査するだけの神経細胞を検査材料として取り出すことは不可能です。そのために現在の検査は神経細胞の集合体である脳,延髄の神経束の一部を採取し,BSEの検査材料として使用していますが,更に精度の高い検査方法が開発されれば,どこの神経細胞を使っても検査が出来るはずです。
 BSEの解明のために,平成14年10月にプリオン研究センターが創設され,4部門の研究チームによって,本格的にBSEの病態や発病機序,生体診断法の確立に向けて厳重な監視のもとに,現在15頭の牛を使ってBSEに感染させ,解明が始まったばかりです。何はともあれ食の安全,安心を保証するためには,BSEに感染した牛を早期に発見し処分する以外に道はないので,一刻も早く,肉骨粉を含め,感染初期の段階並びに生体検査が出来る検査方法の確立が,畜産業界,食肉業界,消費者を始め全世界の共通の願望なのです。
 さて,食の安全,安心は勿論のこと防疫の上からあなたはどの様に思われますか。