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〔技術のページ〕

和牛の放牧技術(周年放牧への取組)

岡山県総合畜産センター和牛改良部  木曽田 繁

 和牛繁殖経営における毎日の飼料給与作業の他に,除糞・堆肥化処理作業は労働的に大きな負担となっています。そこで,総合畜産センターでは,経営に放牧を取り入れ,労働作業の軽減に加え,飼料費の削減,さらには農村の高齢化等による担い手不足により増加している遊休農地を放牧により再生させる方法について取り組んでいます。今回は,放牧に役立つ技術として,@電気牧柵,A追い込み柵・移動式スタンチョン,B放牧牛の繁殖管理,C親子放牧,D越冬放牧の5点について紹介します。

1.電気牧柵

 電気牧柵を用いた簡易放牧技術は広く普及し,遊休農地を活用した放牧が各地で取り組まれるようになってきました。電気牧柵は,電牧線に電流がパルス状に流れていて電牧線に牛が触ると体の中を電流が流れることで電気ショックを受ける仕組みになっています。電牧線に触ると瞬間的に痛みがあるため,牛はこれを嫌い電牧線に触らないようになります。従来の恒久柵が物理的に牛の脱柵を防ぐことに対し,牛の心理面から脱柵を防ぐことになります。
 電気牧柵は恒久柵と比べると軽量であるため,簡単に張ることができ,撤去するのも楽にできます。電牧線を張るときの注意点としては鋭角のコーナーを作らないことです。鈍角のコーナーにすることで牛は追いつめられることなく,電牧線に沿って回りこむことができるので脱柵事故の発生を抑えることができます。

2.追い込み柵・移動式スタンチョン

 遊休農地での放牧の時,牛の捕獲が難しいと言う声をよく聞きます。毎日手塩にかけて育てた牛であれば,捕まえるのは簡単ですが,ある程度警戒心の強い牛は捕まえようとすると逃げるため,なかなか捕まらないことがあります。こんな時に役に立つのが追い込み柵や移動式スタンチョンです。移動式スタンチョンは山口県畜産試験場で作られたものが知られています。3連のセルフロックスタンチョンを用いて足場鋼管で自立させるもので,毎日の給餌の際にそこで餌を与えることで牛が自ら入るようになります。捕まえるときはスタンチョンをロックしてやることで簡単に捕まります。

 また,追い込み柵は,放牧地の一角に足場鋼管で柵を作り,一部をません棒にしておき,中に入った牛を閉じこめて捕まえる方法です。追い込み柵の中に水飲み場や毎日の給餌場を作ることで牛の警戒感を取り去っておくと捕まえやすくなります。
 追い込み柵への牛の誘導は,電牧線(電気は通っていないもの)を用いて誘導路として使うことで簡単にできます。

3.放牧牛の繁殖管理

 放牧をしても分娩前には収牧し,牛舎で分娩させ,後は牛舎で人工授精し受胎後に再び放牧に出す。放牧の場合,このパターンが多いと思います。しかし,放牧場で自然分娩させ,親子放牧し,人工授精,受胎確認,そして再び分娩と放牧場ですべて管理できるとさらに労働の軽減,低コスト生産に結びつけることができます。
 放牧場での繁殖管理は何と言っても発情発見です。毎日の給餌の際の観察によりマウンティング等により確認できますが,補助的な方法としてヒートマウントディテクター等のマーキングの手法があります。しかし,1日に何度も通って観察するのも大変な労力のため,総合畜産センターでは,受精卵移植の際に同期化手法として用いられるイージーブリード(CIDR)を活用し,発情を誘起して人工授精を行う方法を行っています。CIDRを膣内挿入し,2週間後(14日目)に抜去し,その2日後に発情確認,人工授精を実施する。この方法で発情をコントロールすれば,発情発見のための労働力の軽減が可能です。

4.子牛の増飼い

 放牧時,母牛に小さな子牛がじゃれつきながら母乳を飲む。こんな微笑ましい姿を見ることは周囲から見ていても心休まるものがあります。しかし,一方で親子放牧では子牛の成長が遅れるのでは?と言う意見もあります。子牛には子牛用の餌を用意してやればすむ問題です。この技術は古くからあり,子牛だけが自由に出入りできる柵を作り,その中で餌を与える。今では,電気牧柵がありますから,電牧線で子牛の餌場を囲んでやり,高さを1m程度に張っておくと子牛は線に触れずに中に入って自由に餌を食べることができます。親牛は電牧線があるので子牛用の餌を食べることはできません。これにより,牛舎で育てるときと同等に発育を得ることができます。4か月の離乳の後に子牛を連れて帰り,牛舎で仕上げることで子牛の低コスト生産につなげることができます。子牛の放牧は病気の発生が少なく,また,運動も日光浴もできるため,丈夫な子牛を作ることができます。

5.越冬(周年)放牧

 放牧を行うことで労働力の軽減,飼料費の削減に結びつくことから,年間を通じて放牧を行えば,より経費の削減と労働力の軽減に結びつけることが可能です。周年放牧のためには,冬期間の草をどうやって確保するのかが最大の問題となります。
 夏の間に放牧することで余力のできた労働時間を活用し,自給粗飼料を確保しておき,冬期間に放牧場に運搬し給与する方法があります。しかし,どうせなら生えている草を牛に直接食べさせることの方が冬期間の飼料運搬も楽に行うことができます。
 総合畜産センターでは,秋季備蓄草地(文字どおり秋口から放牧せず草を蓄えておく方法)を利用し,立ち枯れの状態の草を直接牛に利用させました。電気牧柵を組み合わせ帯状放牧することで無駄なく草を利用させます。こうすることで,補助飼料としては濃厚飼料を給与するのみで体重の減少を抑え放牧することが可能でした(1haに2頭放牧)。どうしても草が不足するようであれば,水田の裏作に極早生のイタリアンライグラスを9月に播種しておき,牛を移動して補完的に利用することができます。
 以上の放牧技術を組み合わせて活用することで,和牛の周年放牧飼養が可能になると考えます。今後も引き続き遊休農地を活用した和牛の周年放牧を調査し,実用化につなげることで,和牛繁殖経営の規模拡大,和牛の増頭ができればと考えます。